現代時評《WTO逆転敗訴に逆切れする官邸》片山通夫

 「逆切れする官邸」まさにこの表現がぴったりだと言える。WTOの上級委員会が過日「韓国による福島県など8県産の水産物輸入規制措置」を容認する判決が下だした

 そもそもWTOに韓国が8県産の水産物輸入規制措置を行っているのは不当な行為だと訴えを起こしたのは我が国政府である。それだけに勝算があったはずである。

 しかしあえなく敗訴が確定した。現場の8県は大きな痛手を被った。こんな訴えを起こさなかったら韓国との2国間交渉で話をつけることもできた。しかし、WTOという国際機関に舞台を移したがために、この敗訴の決定は世界中に知れ渡ることになった。安倍政権の完敗、つまり読み違いである。

 それでも「菅義偉官房長官は12日閣議後の会見で、韓国による福島などの水産物輸入禁止措置をめぐる世界貿易機関(WTO)紛争処理の最終審について「(日本の)敗訴との指摘は当たらない」と述べた。その上で、韓国に対し、科学的根拠に基づき禁輸措置全体を撤廃するよう二国間協議を通じて求めていく考えを示した」とロイターは伝えた。

 一向に現実を認めようとしない政府だ。

 安倍首相は「オリンピックを招致するとき、原発はアンダーコントロールされている」と世界を相手に公言した。しかしながらその対策は恐ろしくいい加減だった。

 汚染水は増え続けてゆく一方だが、業を煮やしたのか「汚染水は希釈して海に流す」などと言い出した。これには近隣の各国はもちろん、地元の漁師たちも驚いた。

 海に放射性物質を含んだ汚染水を海に流すと言いながら、片方で海産物の禁輸は不当だと訴えても全く説得力がない。まして外国の政府相手に「禁輸はけしからん」と訴えたのは安倍政権である。自国の国民の安全(この場合健康上の安全)を守るのは時の政府の使命である。逆に言うと安倍政権は日本国民の安全をおろそかにしている証左でもあるのだ。

 今一つ、安倍政権はなぜか韓国に対して高圧的だ。歴史認識の違いと言ってしまえばそれまでだが、筆者が韓国やサハリンで1999年以来今日まで取材してきた限りの置いて、このようなかの国に対して高圧的な態度をとる政権は見たことがない。

 安倍政権とその支持層は間違っているとわかっているはずの右翼的な歴史認識で高圧的に接してきた。このような敵対的に韓国と接する政策こそ、我が国にとって不幸でしてはならない政策である。

 安倍首相がそんな政策を推し進めてきた結果である。

 安倍政権は逆転敗訴を素直に認めてフクシマをはじめとする国民を救済し、韓国をはじめとする諸外国に対して節度ある態度をとるべきである。

 しかるに共同通信によれば官邸内では誰かが(敗訴の)責任を取らされるのではともおっぱらの噂だとか。

 冗談ではない。この報道が事実なら真っ先に責任を取るべきは安倍首相、その男でしかない。逆切れする官邸なんてみっともないだけだ。