連載コラム・日本の島できごと事典 その130《島育ち》渡辺幸重

波平暁男「島育ち」のSP盤レコード

島を歌った歌謡曲で私が鮮烈な印象を受けたのが都はるみの「アンコ椿は恋の花」(1964年10月)です。その前年の『第14回NHK紅白歌合戦』では奄美地方(鹿児島県)に関係する歌謡曲が4曲も歌われたことを最近になって知りました。その曲は「奄美恋しや」(仲宗根美樹)、「永良部百合の花」(朝丘雪路)、「島育ち」(田端義夫)、「島のブルース」(三沢あけみ)です。「佐渡の恋唄」(三波春夫)を加えると島の関係は50曲中の5曲を占めることになります。

調べてみると、この頃歌謡曲界では「南島ブーム(奄美ブーム)」が起きていたようで、そのきっかけは紅白の1年前の1962(昭和37)年に田端義夫らが歌って大ヒットした「島育ち」だったということです。ちなみに『第13回NHK紅白歌合戦』では朝丘雪路が「島育ち」を歌っています。「島育ち」は40万枚以上を売り上げた田端義夫(テイチク)の歌で有名ですが、朝丘雪路(東芝)、仲宗根美樹(キング)も競作でレコードを出しています。

「島育ち」は1939(同14)年、奄美を拠点に創作活動を行っていた作詞家・有川邦彦、作曲家・三界稔によって誕生しました。奄美地方で歌い継がれ、1949(同24)年に波平暁男の歌でレコードが全国発売されましたが、ヒットしませんでした。そのほか上村藤枝や大島ひろみのSP盤レコードも残っています。田端義夫は1961(同36)年頃、沖縄料理店でこの曲を聴いて感銘を受け、レコード会社を説得して翌年夏のEPシングル盤によるレコード発売にこぎつけたのです。

私にとって「島育ち」「永良部百合の花」「島のブルース」は子どもの頃からよく耳にした曲です。「赤い蘇鉄の 実も熟れる頃」で始まる「島育ち」は4番まで歌えました。「奄美なちかしや 蘇鉄のかげで」で始まる「島のブルース」もよく歌いました。この2つの曲は音楽の授業でもみんなで歌ったような気がします。

奄美の歌を中心とした歌謡曲界の南島ブームは現在の「沖縄島唄(ポップス)」の隆盛に繋がっていると思います。昔の歌も新しい形で蘇って欲しいものです。