「井上脩身」カテゴリーアーカイブ

現代時評《国の品格落とす安倍氏の国葬》井上脩身

~チャーチル元英国首相との違いを考察~

9月8日に亡くなったエリザベス女王(写真)の国葬が19日、執り行われた。わが国の天皇をはじめ世界各国の国家元首や首脳約500人が参列して営まれた葬儀は、国葬の名にふさわしい荘厳な趣を醸し出していた。イギリスでは女王以外の国葬は、第2次大戦後では1965年に亡くなったチャーチル元首相だけである。イギリスでは王以外の人物を国葬とする場合、王室と議会の同意が必要だが、わが国では国会の承認を得ないまま、27日に安倍元首相の国葬が行われる。イギリスの例をみるならば、議会に諮ることなく国葬を行い得るのは、安倍氏がチャーチル以上に高く評価される歴史的政治家であると、国民のだれしもが認める場合に限られるであろう。しかし岸田首相がチャーチルの業績を分析し、安倍氏と比較検討した気配は全くない。 続きを読む 現代時評《国の品格落とす安倍氏の国葬》井上脩身

現代時評《時代錯誤の元首相国葬》井上脩身

安倍国葬反対集会 ・インターネットより

8月20、21日に毎日新聞が行った世論調査によると、岸田内閣の支持率が36%と7月の調査より16ポイントも急落した。回答者の87%が自民党と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係に問題があるとし、安倍晋三元首相の国葬に53%が反対している。旧統一教会と深いつながりがある安倍氏の国葬に半数以上の国民が嫌悪感をいだいているのである。安倍氏が銃弾によって非業な死を遂げたことはまぎれもない。だがそれが「政治家安倍」の知られざる精神世界を浮き上がらせたことも事実である。国葬が妥当であるのか。私なりにかんがえてみた。 続きを読む 現代時評《時代錯誤の元首相国葬》井上脩身

◇現代時評《安倍元首相襲撃容疑者の心を読む》井上脩身

街頭演説中の安倍晋三元首相が手製銃で暗殺された事件で、容疑者が宗教団体「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」の最高幹部に強い恨みを持っていたことがこれまでの捜査で判明。さらに安倍氏を狙った理由について、容疑者は安倍氏が同教団に近い関係にあると思ったから、と供述しているという。だが、これだけの動機で銃の引き金を引いたとは思えない。容疑者はなぜ同教団の教祖的存在である最高幹部に代えて安倍氏殺害に至ったのか。容疑者には、安倍氏がカリス性をおびた政治的教祖に見えたからではないのだろうか。この事件の解明のカギは「教祖」だと私は考える。 続きを読む ◇現代時評《安倍元首相襲撃容疑者の心を読む》井上脩身

現代時評《勝敗分けるドンバス攻防戦》井上脩身

ロシアがウクライナに侵略戦争を始めて4カ月がたった。ロシアは現在東部ドンバス地方に戦力を集中させている。ドンバスを完全制圧して属国にするのがプーチン大統領の狙いであることは、「ネオナチストから守る」とのプーチン氏の発言から見て明らかである。この目的達成ために周到に用意されたプロパガンダの結果であることが、最近上映された映画『ドンバス』を見てわかった。ドンバス地方には「ウクライナ兵はファシスト」と信じて疑わない人が少なくないのである。ウクライナ軍が、NATO諸国からの兵器の支援を得て東部戦線のロシア軍を押し返すことができても、住民たちに植え込まれた反ネオナチス感情を払拭するのは難しい。ウクライナ側にとって、この戦争はいま極めて厳しい局面にさしかかっている。 続きを読む 現代時評《勝敗分けるドンバス攻防戦》井上脩身

現代時評《ロシア軍のウクライナ国民排撃レイプ》井上脩身

ロシアがウクライナに侵攻を開始して3カ月余りがすぎたが、戦争が長引くにつれ、民間人に対する殺害などのロシア軍兵士の犯罪行為が次々に明るみに出ている。こうしたなか、信じがたい報道に接した。ウクライナの女性に性交渉を嫌悪させ、結果とし子供を産まなくなることを目的に、ロシア兵がレイプを行っているというのだ。レイプは女性の尊厳に対する卑劣な行為であるが、加えてウクライナ国民としての尊厳そのものを切り裂き、さらには将来生まれるであろう子供をも抹殺する″ウクライナ人全否定レイプ″である。プーチン大統領がいかにウクライナ戦争を正当化しようと、「悪魔の集団犯罪」というほかない。

この報道は5月10日付毎日新聞のコラム「火論」の中で取り上げられた。執筆者は2年連続新聞協会賞の受賞歴がある大治朋子記者。概要は以下の通りである。
ウクライナのメディアによると、兵士によるレイプは4月の前半に市民団体に情報が寄せられた被害だけでも約400件。首都キーウ(キエフ)近郊のブチャでは14~24歳の女性約25人が民家の地下で繰り返しレイプされてうち9人が妊娠した。ロシア兵は女性たちに、このレイプで今後、彼女らが性交渉を嫌悪するようになり、子供を持てなくするのが狙いだと語った。
大治記者はロシア兵のレイプ目的について、「『敵』の子孫の繁栄を阻むため」と表現。ウクライナ人の子供をつくらせないためにレイプしたというのである。
大治記者は「犠牲者の一部は殺されていない」としたうえで「レイプの傷が刻まれた女性をあえて生かすことで、人々に癒えることのない傷と恐怖を刻み込む。それこそがウクライナ社会そのものへの凌辱」と書く。
子供を産めないようにするためのレイプ例はあるのだろうか。調べてみると「アカイエス事件」に行き当たった。1944年、東アフリカのルワンダで50~100万人の市民が虐殺されたジェノサイドについて、国連安保理事会によってルワンダ国際刑事裁判所(ICTR)が設立され、アカイエスという元タバ市長が裁かれた。アカイエスは影響力があり、住民は彼を尊敬、命令に従ったという。
裁判で被害者が「見つけ次第強姦する」と言われたと証言。多くの女性が繰り返し強姦されており、組織的なレイプであることが判明。アカイエスが「唯一の敵を除去するために協力するように」と住民に呼びかけており、実際、レイプの多くはタバ市庁舎の中や近くで行われた。
強姦された女性が、その結果子供を産むことを拒否するようになること、恐怖やトラウマから子供を産めなくなることから、強姦も虐殺などと同様、ジェノサイドの要素とされている。ルワンダのフツ族とツチ族との戦いのなか、フツ族がツチ族を抹殺の手段として公然レイプを犯したとして、アカイエスはジェノサイドの罪で終身刑が言い渡された。
ウクライナ人女性に子供を産ませないために行ったロシア兵の犯罪は、ルワンダでのおぞましい事件と基本的に何ら変わらない。大治記者は「ウクライナ社会への凌辱」と書いたが、「全女性への凌辱」でもある。愛の喜びである性を汚らわしいものにするという点で「人間への凌辱」であり、子供が生まれてこれないようにするという点では「未来への凌辱」でもある。
ルワンダ大虐殺ではアカイエスが裁かれた。ロシア兵のレイプについて本当に裁かれるべきは誰であろうか。
ロシアのプーチン大統領は4月18日、ブチャを攻略したロシア軍兵士の「英雄行為」をたたえ、名誉称号を与えた。英雄行為のなかに、レイプも入っているのであろうか。
プーチン大統領は5月9日の戦勝記念日の演説で「我々の責務はナチズムを倒すこと」と述べた。ナチズムがユダヤ人排撃思想であったことはまぎれもない。「ナチズム打倒」を名目にウクライナ国民排撃戦争に打って出たプーチン大統領。裁かれるべき者はだれの目にも歴然としている。

現代時評《プーチン流「非武装中立」の正体》井上脩身

ウクライナに軍事侵攻しているロシアは4月半ばになって戦力を東部に集中、戦闘はいっそう激化している。ロシアのプーチン大統領がウクライナに求めた「非武装」と「中立」で停戦合意できる見通しは立っておらず、戦争の泥沼化は必至である。そもそもプーチン氏が「非武装中立」を言いだしたのはなぜなのか。「非武装中立」は米ソの東西冷戦時代に旧社会党が掲げたスローガンであるが、プーチン大統領の口から出た途端、弱い者いじめの傲慢な言葉に堕す。そこには21世紀を「米露冷戦時代」にしようとのプーチン氏の野望が透けて見える。 続きを読む 現代時評《プーチン流「非武装中立」の正体》井上脩身

現代時評《ウクライナ戦争のなかのオペラ座》井上脩身

オペラ座・キエフ

オペラ座の幕上がる日来よ古都キエフ

私が所属している川柳クラブの3月例会に投句した句だ。ロシアは2月24日、ウクライナに軍事進攻したが、早期決着というプーチン大統領の思惑通りに進まず、長期化の様相を呈している。ウクライナ軍がプーチン氏の想定をはるかに超えて粘り強く反抗、ロシア軍の進撃を阻んでいるためとみられ、激しい爆撃に遭いながらもウクライナ市民はなお耐え抜いている。戦力ではるかに劣るウクライナがなぜ大国・ロシアとここまで渡り合うことができたのか。私は「オペラ座」に読み解くカギがあると考えている。 続きを読む 現代時評《ウクライナ戦争のなかのオペラ座》井上脩身

現代時評 《再婚禁止期間廃止の問題点》井上脩身

法務大臣の諮問機関、法制審議会の親子法制部会は2月1日、女性の再婚禁止期間の規程を廃止することなどの民法改正要綱案をまとめた。とくに注目されるのは、「離婚後300日以内に生まれた子も、女性が再婚していれば再婚相手の子と推定」との規定を設ける点で、無国籍の子どもをなくすためとしている。現行民法は1898年に施行されたもので、戦後、憲法が制定されてからも家父長制度的な規定は温存されてきた。今回の答申はその壁に風穴を開けるという意味では意義は大きい。しかし、再婚しないで子が生まれた場合に対する配慮は十分でなく、保守的な家族観が根強く息づいていることをうかがわせる内容となった。 続きを読む 現代時評 《再婚禁止期間廃止の問題点》井上脩身

現代時評《″反安全″日米地位協定》井上脩身

~オミクロン株の巣の沖縄基地~

オミクロン株の出現により、国内の新型コロナ感染は1月になって爆発的に激増、昨年8~9月の第5波をはるかに上回る危機的状況を呈している。欧米を中心に世界的に感染が広がるなか、政府は外国からの入国者に対するPCR検査の徹底など水際対策を強化したが、沖縄の米軍基地からコロナウイルスが漏れだし、沖縄県内に感染がまん延。年末年始の観光シーズンの到来とともに全国に広がったとみられる。「日米地位協定」によって米軍基地が日本政府の手の届かない治外法権の鉄の壁で囲まれている結果、水際対策が機能しなかったのである。日米地位協定はわが国にとって不平等な取り決めであるにとどまらず、国民の健康を損なう″反安全協定″であることが明らかになった。 続きを読む 現代時評《″反安全″日米地位協定》井上脩身

現代時評《民主主義サミットの危険性》井上脩身

ONLINE民主主義サミット(Webから)

アメリカのバイデン大統領の呼びかけによるオンライン形式の「」が、12月9日から10日(日本時間)にかけて開かれた。バイデン大統領は世界を民主主義国と専制主義国に二分し、その対立ととらえているように思われるが、現実は同大統領が考えるほど単純ではない。20世紀までに植民地支配をした欧米諸国(日本も含む)の多くは民主主義国であり、逆に植民地支配された国々に専制主義的な傾向がみられるなか、最も注視しなければならないのは植民地支配された国民のもつ屈辱感である。世界の中心軸がアメリカから中国に移りつつある今、その複雑な国民感情がどのように21世紀世界に影響を及ぼすかはまだ見通せない。わかっていることはただひとつ、いたずらに対立を煽ることは火種の元である。 続きを読む 現代時評《民主主義サミットの危険性》井上脩身

◇現代時評《「清美ショック」の立憲民主党》 井上脩身

清美節聞けぬ国会ちと寂し

11月23日付毎日新聞の投句川柳欄に掲載された句だ。清美はいうまでもなく立憲民主党の前衆議院議員、辻元清美さん。先の衆院選で落選した。辻元さんは小泉純一郎首相時代、国会で「ソーリ、ソーリ」と追及して名をあげた。民主党政権時代に国交副大臣をつとめ、権力の側にあることの利を覚えている。衆院選で予想外に議席を減らした立憲民主党。11月30日の代表選挙をへて、党の立て直しを図ることになるが、「政府追及勢力」にとどまるのか、「政権交代勢力」を目指すのか、という基本的立ち位置はあいまいなままだ。同党はいま、「清美落選ショック」ともいうべき深刻な状態にある。

冒頭の川柳は熊本の「ピロリ金太」さんの句だ。大阪・高槻市が選挙区(大阪10区)である辻元さんとは特段のつながりはないようだ。だから、辻元さんがいない寂しさは「ちと」なのであろう。私は「大いに」寂しい。なぜなら、私が卒業した高槻市の小学校を、辻元さんは4年生のときに1年間在籍していたからだ。彼女は5年生のときに大阪市の小学校に転校したので、私の母校の卒業生名簿には載っていないが、広い意味で同窓なのだ。
辻元さんは1996年、社民党(社会党から改称)の土井たか子党首の誘いで、衆院選比例近畿ブロックで初当選。2000年の衆院選では大阪10区から出馬し、再選した。「ソーリ」発言は、40歳を超したばかりのこの2期目のときに飛び出した。2009年、民主党を中心とする連立政権が樹立されると、辻元さんは社民党枠で国土交通副大臣に就任。翌年、社民党が連立を離脱したため副大臣を辞任したが、その際、「国交省は利権の巣窟だと思っていたがそうでなかった。多くの職員が変えていこうという思いに賛同してくれた。辞めるのはつらい」と、政権側の要職にあることの意義を語った。
辻元さんは2010年、社民党を離党、翌年、東日本大震災の発生を受け、災害ボランティア担当の首相補佐官に就任。「ボランティアのための窓口を政府につくりたい」と意欲を示し、同年、民主党に入党した。2012年の衆院選で民主党は惨敗して政権を失うが、辻元さんは比例で辛くも当選。2017年、民進党(前年、民主党と維新の党が合流)が小池百合子氏主導の希望の党への合流を決定したさい、枝野幸男氏がその決定に従わず、立憲民主党の設立を表明。辻元さんも立憲民主党に参画し、同年の衆院選で7選をはたした。
2021年10月31日に行われた衆院選では、序盤、優勢とみられたが、終盤、日本維新の会の新人の猛追に遭い、約1万4000票差で敗北。比例復活もできず議席を失った。辻元さんは「維新の突風が竜巻のように吹いた」と肩を落とした。

辻元さんが当初優勢とみられたように、立憲民主党全体として当選者が増えると予想された。その一番の理由は、国民民主、共産など野党5党が7割以上の小選挙区で一本化したことにある。ところが蓋を開けてみると、立憲民主党の当選者は96人(小選挙区57、比例39)と、前回(110人)より14人減少。枝野氏はその責任をとって代表を辞任した。
なぜ敗れたのか。選挙終盤、共産党の志位和夫委員長が街頭で、「立憲民主党中心の政権ができたら、共産党は閣外協力をする」と演説、その様子がテレビで何度も流れた。立憲民主党としては有難迷惑な発言だろうと私は思った。結果からみれば、モリカケや桜を見る会などに表れた傲慢な自民党の政権運営に批判していた人たちのなかの、「野党に政権は任せられない」とか、「共産党と組む政権は嫌」といった、自民党と立憲民主党の中間に位置する票が、自民党に戻ったり、日本維新の会などにまわったのであろう。維新が前回の11議席から41議席へと4倍近く伸びたのは、この自民党批判保守票が流れこんだからにほかならない。

いったい野党の役割は何であろうか。
かつて55年体制下では、社会党の最大の役割は労働者の擁護であった。だが、労働組合組織率が推定17%(2020年、厚労省調査)の現在、勤労者の意識は大きく変わり、その大半は支持政党なし層である。この層の有権者の政治意識はコロコロ変わる。コロナ感染が急拡大すると、横浜市長選で当選間違いなしとみられた前閣僚を落選させるほどの強風になる。だが、コロナが収束に向かうと、すーっと風向きを変える。野党が政権批判を強めれば、「何でも反対する」と冷たく言いはなち、政権を取る姿勢をみせれば、「民主党政権の失敗は二度とごめん」とそっぽをむく。
野党の役割はつまるところ、「政権追及勢力」か「政権交代勢力か」のどちらかでしかない(「政権すり寄り勢力」「政権補助勢力」もあるが、私はまっとうな野党とは考えていない)。枝野前代表は「政権批判を強めながら政権交代勢力になる」という二段構えであったと思われる。だが、辻元さんの例をみると、それは容易ではないことがわかる。「ソーリ、ソーリ」と強く追及した辻元さんには魅力があふれていた。だから冒頭のように川柳にも詠まれたのだ。だが国交副大臣や首相補佐官という政権幹部政治家を経験した後の辻元さんは、テレビで見るかぎり、気迫の政治家から、したたかな政治家に変わったように思われる。政治家としては成長したとしても、鮮烈な魅力が薄れたという印象は否めない。

立憲民主党の代表選挙には、逢坂誠二元首相補佐官、小川淳也元総務政務官、泉健太政調会長、西村智奈美元副厚生労働相の4氏が立候補した。12月から新たな代表のもとで党の再構築がなされるが、「ソーリ、ソーリ」の党か、それとも「官僚が賛同してくれる」党を目指すのか。どちらでもなくただ混迷を深めるならば、来年の参院選で、「維新の突風」に吹き飛ばされることは必至である。