連載コラム・日本の島できごと事典 その132《雨水生活》渡辺幸重

五木の子守唄に「水は天からもらい水」という文句があります。「水は天の都合により天からもたらされるもので地上の人間の都合で得られるものではない」という意味を持っているそうです。水は人間生活にとって欠かせません。山が高く水量豊富な川が流れる島ならともかく、山が低く面積が小さい島では生活用水を得るのが難しく、“離島苦”の一つになっています。

長崎県五島列島に属する赤島は福江島の南部に浮かぶ人口14人(2015年国勢調査)の有人島ですが、水道施設がない島です。生活用水のすべてを雨水に依存しており、全戸に雨水タンクと浄水器が設置されています。2017(平成29)年度からは福井工業大学と連携して雨水給水システムを構築する実証事業「しまあめラボ(赤島の天水活用研究所)」が続けられており、“水不足”を解消するだけでなく「雨水生活が体験できる日本唯一の島」として雨水活用を島の振興策として生かそうとしています。また、環境問題への一つの対応策としても注目されています。
2020(令和2)年度にはしまあめラボの「赤島活性化プロジェクト~雨水活用による持続可能社会の模索~」が「STI for SDGs」アワードの優秀賞に、「雨水生活体験」などの取り組みを撮影した写真をベースに制作した福井工大の作品が「我が家の節水自慢/フォトコンテスト」で最優秀賞に選ばれました。また、同年6月には全国ネット(日本テレビ系)の環境特番「みんなでつくろう!地球の未来ストーリー」でも「国内唯一の完全雨水生活を営む島」として紹介されました。

福井工業大学環境情報学部の笠井利浩教授が赤島に注目してプロジェクトを始めた頃、赤島では一日平均で一人約62リットルの水を使用していました。これは東京都民が一日平均一人約220リットルの水道水を使っていることと比べるとかなりの節水生活をしていることになります。赤島の人たちは使った食器を先に拭いてからまとめて洗うことや風呂は湯船には入らず短時間のシャワーですませたり、ときには体を拭くだけにするなど涙ぐましい工夫をしていたそうです。
笠井教授らは、海水の塩分が混じりにくい海から離れた山かげの風の弱い場所に50平方メートルの集水面を持つ「雨畑(あめはた)」を設置し、大気中や屋根の上のほこりなどが含まれる初期雨水を除去し、きれいな雨水だけを溜める「雨水を水源とした小規模集落給水システム」を作りました。2018(平成30)年)には3000リットルのタンク2基を増設し、初期雨水をコンピュータ制御でカットする装置を付けました。タンクから各家庭に送られる水はUV殺菌装置や逆浸透膜などを通してより安全安心な飲料水にしています。これらのシステムの稼働状況は常に福井工業大学からモニタリングされています。また、島の住民や学生たちへの環境教育プログラムなども実践しています。

笠井教授は「川の水などと比べて雨水には菌が少なく、水道が整備されていない場所でも安心して飲める水が得られる」として人の生活や環境問題対策に役に立つこのシステムを日本各地や海外に普及する活動にも取り組むとしています。

写真:赤島と雨水活用システムのしくみ(2020年度「STI for SDGs」アワードのサイトより)
https://www.jst.go.jp/sis/co-creation/sdgs-award/2020/result_2020_yusyu.html