連載コラム・日本の島できごと事典 その129《自衛隊の島》渡辺幸重

馬毛島に建設される自衛隊基地と施設(「島じまスタンディング」資料より)

第二次世界大戦における“玉砕”の島・硫黄島(小笠原諸島)は旧島民の強い要望にも拘わらず戦後ずっと自衛隊のみが駐留する「自衛隊の島」になっています。全国ではほかにも民間人が住んでいない自衛隊のみ(一部米軍や気象台職員を含む)の島があります。

長崎県・対馬の北、九州島と韓国との間の対馬(つしま)海峡に浮かぶ海栗島(うにじま)もその一つです。海栗島には明治時代に旧日本陸軍の無線基地が設置され、昭和に入ってから第二次世界大戦まで軍事基地として砲台が設置され、一般住民の立入りが禁止されました。戦後は1947(昭和22)年に進駐軍(GHQ)がレーダー基地を設置し、1959(同34)年に航空自衛隊に移管されました。現在は航空自衛隊の海栗島分屯基地が置かれ、自衛隊員64人が住んでいます。人口は1975(同50)年には191人などと変動していますが、住民は全員隊員寮に住んでいるため世帯数は「1」と変わりません。その他島で働く多くの自衛隊員は対馬にある宿舎や自宅などから船で通勤しています。海栗島には民間人の居住はなく、島に上陸することもできませんが、年に1回、開花に合わせて対馬・鰐浦地区で開催される「ひとつばたご祭り」の際は1日だけ基地が開放されます。なお、鰐浦地区は日本最大の「ひとつばたご(植物)自生地」です。
壱岐(いき)・勝本港の北にあり、海栗島と同じ対馬海峡に浮かぶ若宮島も「自衛隊の島」で、海上自衛隊壱岐警備所として隊員寮に14人が住み、勝本から通う自衛隊員とともに対馬海峡東水道を監視しています。
自衛隊の島としては吾妻島(神奈川県横須賀市)や南鳥島(東京都小笠原村)などもあります。
海栗島や若宮島を含む対馬・壱岐地域から九州島に続き、琉球弧(南西諸島)まで朝鮮半島から台湾島までをつなぐ島々では現在、北朝鮮や中国の脅威を喧伝する日米両政府によって急速に軍備強化が進んでいます。近年、与那国島や石垣島、宮古島、奄美大島に自衛隊基地が新設されたのはその一部ですが、現在種子島の北西に位置する無人島・馬毛島に米軍のFCLP(陸上空母離着陸訓練)施設を含む自衛隊基地の建設工事が急ピッチで進められています。「自衛隊の島」は、戦争放棄を謳った平和憲法の国で国民的議論のないまま新たに作られようとしているのです。