連載コラム・日本の島できごと事典 その126《焼酎》渡辺幸重

 島にはそれぞれ特色のある“味”があり、そして“島酒”があります。「おいしい酒」というと、島に生まれ育った人間や島旅が好きな人はどうしても自分の故郷や贔屓の島の酒を第一に挙げることが多いようです。私の場合は屋久島の芋焼酎「三岳(みたけ)」ということになります。

伊豆諸島・青ヶ島の島酒は「あおちゅう(青酎)」です。酒造会社は1つでラベルも同じですが、各家庭に伝わる製法と味が10人ほどの杜氏に引き継がれ、それぞれが異なる味を持っているといわれます。サツマイモと麦麹を使ったものが主流で、流通量が少なく島外では購入が難しいため“幻の酒”と言われましたが、最近ではスーパーで目にすることもあります。私にとっては「トビウオのクサヤで一杯」が最高です。

幻の酒と言えば八重山諸島・波照間島の泡盛「泡波(あわなみ)」を挙げなければなりません。家族経営によって基本的に島内消費用として生産され島外へ出回る量が限られているため島外では高値で売買されます。だいぶ前のことですが、3合瓶くらいの小さな瓶が化粧箱に入れられ、1万円で売られていたのを那覇の国際通りで見たことがあります。ちなみに波照間島では3合瓶は数百円だということです。芋焼酎に慣れた私にとって米焼酎の泡盛はさっぱりした味ですが泡波はさらにまろやかに感じます。
泡盛のアルコール濃度は43度が普通ですが、さらに高い60度の酒があるのをご存知でしょうか。与那国島の「花酒」です。製法は泡盛と同じでタイ米と黒麹で作りますが、日本の酒税法では45度以上の酒は「スピリッツ」に分類され、表示は「原料用アルコール」で税率も高いのですが、 2020(平成32)年4月に「泡盛」と表記してもよいことになったようです。ただし、45度以下の泡盛に対して認められている「酒税の35%軽減措置」の対象にはなっていません。花酒はクバの葉に包まれた瓶でおなじみで、ストレートでおちょこで飲むのが普通です。火が付くぐらいの濃度にもかかわらず飲みやすいので飲み過ぎないよう注意が必要です。私には花酒の“古酒”がおいしすぎて涙が出るくらい感激した思い出があります。与那国島では埋葬の際に花酒2本を墓に入れ、7年後に1本を洗骨に使い、もう1本は参加者で飲むという風習があるそうです。
奄美群島でしか作られていない焼酎が黒糖を原料にした黒糖焼酎です。黒糖焼酎も復帰当時(1953年)の酒税法上では「スピリッツ」になるところでしたが、こちらは花酒とは違い、特例的に「黒糖焼酎」という名称で焼酎に分類され、低い税率が適用されています。なお、黒糖焼酎という名称は奄美群島でしか使うことができません。
壱岐(長崎県)は500年ほど前に日本で初めての麦焼酎が作られた歴史を持っています。このように島では焼酎の話が尽きません。
ちなみに、1995(平成7)年には「麦焼酎の壱岐焼酎」「米焼酎の熊本球磨焼酎」「沖縄琉球泡盛」「鹿児島の薩摩芋焼酎」がWTO(世界貿易機関)により「焼酎発祥の地」として「地理的表示の産地指定」に認定され、国際的にブランドが保護されています。
写真:日本最南端の島の焼酎「泡波」