現代時評《「我々は何もかも決して忘れない」ゼレンスキー大統領》山梨良平

動画にはロシア兵が短剣で、まだ生きているウクライナ兵の首をはねたと思しき光景が映し出されていた。(英エコノミスト誌 2023年4月22日号)
この動画を見たウクライナのゼレンスキー大統領は「我々は何もかも決して忘れない」と述べたとメディアは伝えた。CNNによると「ウクライナ軍は反攻には好位置にいる」と米欧州軍のカボリ司令官は米下院軍事委員会で述べたと伝えた。しかし慎重論というか、「過度の期待はせぬ事だ」と戒める説も少なくはない。このところ、ウクライナ軍の反転攻勢の噂が世界を飛び回っている。事実かどうかはまったく不明と思える。ある報道によるとウクライナの反転攻勢に関して、ウクライナのオレクシー・ダニロフ国家安全保障・国防会議書記は4月6日、「詳細をすべて把握しているのは5人の幹部だけ」だと述べるにとどめた。こういう情報がメディアに「期待させる」ことになる。噂が噂を呼ぶとはこのことだ。

最近ロシア国内でも不穏な空気が流れている。2002年10月23日 – 10月26日にかけて、ロシア連邦内でチェチェン共和国の独立派武装勢力が起こしたモスクワ劇場の人質・占拠事件があった。このほかにもベスラン学校占拠事件、ロシア高層アパート連続爆破事件などがあったことを思い起こさせる。いよいよ「テロの時代」に突入したのではないか。考えてみれば、第二次世界大戦以後、米英の画策でパレスチナの地をイスラエルに売り渡した時から、世界はテロの応酬に明け暮れ、それが引き金になって戦争が起こった例も多い。

今後、ウクライナが反転攻勢に成功しても、広大な面積を持つロシアを征服は不可能だと思う。そうすると両国ともテロの応酬ということになる。チェチェン紛争の時のようなモスクワを襲ったテロ事件が頻発する危険が残る可能性を危惧する。第三次世界大戦が巻き起こる危険はともかく。

ここで思い起こすのが冒頭にも述べた、ゼレンスキー大統領の「我々は何もかも決して忘れない」という言葉である。この言葉には「相手を赦す」という意味にはとれない。このロシアとウクライナの戦争がどのような形に治まっても「被害を受けた側は決して忘れない」だろう。この言葉が今のウクライナ国民を奮い立たせるエネルギーであっても、その後はそうでないことを祈るのみである。無理を承知で祈るばかりである。