とりとめのない話《風と気配と地蔵さんと》 その4  中川眞須良

写真はイメージ

風無し地蔵

なぜかお地蔵さん  
辻、角に祀られている事が多い。 穏やか表情 生けられた花の微かな香り そして焚かれた線香の僅かな煙の末端とがお地蔵さんと人とを結ぶ絆である。それは時に人を立ち止まらせ思いを改めさせ進む道を再考するきっかけを与える時すらある。

なぜかお地蔵さん 
複数体で祀られている事が多い。 二体から多いときは六体以上 人との関わり合いの分担が決まっているのだろうか、人の何かを祓い人の何かを願い そして人の世の何かを見つめる、、、?など。 宝珠地蔵は人の餓鬼の道を救う「専門職」と聞いたような、、、、? ならば 一体の地蔵さんはこれらすべてを受け持つのなら なお忙しい。

なぜかお地蔵さん 
赤い衣装を身に纏う事が多い。 真っ赤 朱色 橙 黄色 赤紫まで、 うち三色で全身を上手くコーディネートしているお地蔵さんに出会うと思わず笑ってしまう。色彩の三原色の赤は 仏教界の一部で「無」を意味するため人も地蔵さんも赤の衣装は全裸に等しいと聞くが・・・。

堺市内から奈良 明日香への旧街道「竹内(タケノウチ)街道」沿いに大小五体のお地蔵さんが整然と並び祀られている祠がある。東隅の小さい祠の扉はいつも閉じられたままだがその前には小さいながらも赤い鳥居、正面から吊るされた本坪鈴、賽銭箱が備えられ小さな神社としての構えである。元々 各その名があったであろう街道周辺のお地蔵さんを集め合祀した祠のようである。 その名「黒土(市内の昔からの現地町名)西地蔵尊」と。 うち一体の地蔵 三界萬霊 と彫られた四角の石の上に座す。この地蔵尊 通りの辻、角に位置していないが 広く長い庇、深い軒の下に位置するため今日のように晴れの日でも祠の中が薄暗く地蔵の表情はほとんど見えない。さらに 他の地蔵尊のように風に乗って時折り運ばれてくる三界の気配のようなものを感じないし 風によって他界に放たれる微かな線香の煙の匂いもない、無風である。この地独特の夕凪の時間帯だからだろう。 今度立ち止まった時 萬霊への道しるべとして数本のロウソクの火が時折り揺れる「灯リ」に 春の気配が巡り始める春分の日から数日後の日没前の柔らかい低い夕陽と 昼の余り東風が程よく重なればあの日偶然出会えた地蔵の素顔に再会できるかも・・・。

小さな期待である。