現代時評《能登半島地震が示した志賀原発の危険性》井上脩身

元日に発生した能登半島地震で、震源地から約50キロ離れた北陸電力志賀原発(石川県志賀町)の敷地では震度5強を観測、変圧器が破損するなどの被害が出た。今回の地震は、能登半島北部の活断層が想定をはるかに超えてずれたことに加えて、複数の活断層が関連して動いた結果とみられており、同原発が「危険な活断層の上に建つ原発」である可能性が明らかになった。現在運転停止中の同原発について、再稼働に向けての安全審査が行われているが、この地震を機に、北陸電力は廃炉へと方針を180度転換すべきであろう。

志賀原発は1号機と2号機からなるが、いずれも福島第一原発の事故を受けて2011年から運転を停止。北陸電力は2014年、2号機の審査を原子力規制委員会に申請した。規制委の有識者調査団は2015年、原子炉直下の断層について「活断層であることを否定できない」と指摘。規制委は2023年3月、「活断層でない」と判定した。本当に活断層でないのか、不安が払拭されていないなか、新年早々、志賀町で震度7の揺れを観測する能登半島地震が起きた。
この地震によって、同原発原子炉建屋地下2階で399・3ガルの揺れを観測した。東京大大学院の岡本孝司教授(原子力工学)は「志賀原発は耐震設計の基準となる地震の揺れの大きさを、想定される揺れの約2倍に当たる1000ガルとし、十分余裕のある補強工事を進めてきた」としたうえで、「原発は一定の被害を受けたが、原子炉の安全性という観点では想定の範囲内で、まったく問題はない」と言い切った(1月15日、産経新聞電子版)。電気事業連合会も1月11日のHPで「地盤を掘り下げて十分支持性能を持った揺れにくい岩盤に建設している」といて、安全性を強調した。

一方で、11日に開かれた原子力規制委員会の定例会で、設備の審査を担当する杉山智之委員が「発電所内の設備はもっと強くあってもいいのでないか」と発言するなど、原子力の専門家のなかでも、安全性への不安感がひろがりだしている。その大きな要因が、比較的揺れが小さかったにもかかわらず、外部電源から電力を受ける変圧器が1、2号機とも破損し、約2万3400リットルの油が漏れたことにある。
加えて問題視されたのが、今回の地震で活断層の長さが、同電力の想定をはるかに超えている点だ。同電力は、2号機の審査で、能登半島北部の活断層の長さは96キロとしていたが、150キロに達する活断層であることが判明した(1月13日、毎日新聞)。同原発の安全性を評価するための前提条件が根柢から崩れたのである。
元村有希子・毎日新聞論説委員は14日、TBSの報道番組「サンデーモーニング」で、以上の報道をふまえて、「福島のとき『想定を超える』という言葉は何度も聞いた」と発言。「(原発)周辺の放射能を測るモニタリングポストという測定器が一時使えなくなった。こうしたことも″想定外でした、でも今回運よく大丈夫でした″というのでは住民は安心できない」と語った。

はたして志賀原発は「安全」なのか、「たまたま運よく大丈夫だったに過ぎない」のか、はたしてどちらであろうか。
志賀原発2号機については1998年8月、17都道府県の住民135人が運転差し止めを求めて、北陸電力を相手どって金沢地裁に提訴した。井戸謙一裁判長は2006年、「原発敷地の地震動の評価が合理性を欠き、過酷事故に発展する具体的危険がある」として、運転差し止めを命じる判決をくだした。井戸氏は後に『原発を止めた裁判官――井戸謙一元裁判官が語る原発訴訟と司法の責任』(現代人文社)のなかで、判決について以下のように説明している。
能登半島のちょうど付け根のところに邑知潟断層帯がある。8~10キロくらいの断層が四つか五つ連なっており、裁判では各断層が個別には動かないのか、連動する可能性があるのかが争点になった。北陸電力は、連動はせず、起こりえる最大の地震はマグニチュード6・6と主張。しかし2005年、政府の地震調査研究推進本部は44キロ全部が連動して動く可能性があり、その場合はマグニチュード7・6の地震が発生すると推定した。
井戸氏は断層帯の連動可能性を重視、「(北陸電力の)邑知潟断層帯が引き起こす地震の規模についての評価が小さすぎる」と判断、運転差し止めを命じた、という。
井戸氏は判決後の2007年、志賀町で震度6を観測する能登半島地震が起きたことに言及。この07年地震で志賀原発では711ガルを記録。同原発2号機の想定ガル値は490ガルなので、想定を220ガル上回る揺れとなった。こうしたデータを分析したうえで、井戸氏は「過去に活断層があると認識されてなかったところで大地震が起こった例はいくつもある」とし、「原発敷地の地表面の300メートル程度を調べ、そこに活断層がないからといって、その下に活断層がないとはいえない」と指摘した。志賀原発直下に、いまだ知られていない活断層があり、それが1000ガルを超える地震を引き起こす可能性は無視できないというのである。

今回の地震による報道で、能登半島とその沖合にかけて、少なからざる数の活断層が東西にはしっていることを知り、私は驚愕した。大げさにいえば、能登半島は活断層の巣ではないか。政府の地震調査委員会は今回の地震について、能登半島西方から佐渡島西方沖までの複数の活断層が関連した可能性が高い、との見解を示した。ということは、井戸氏が主張するとおり、志賀原発直下の活断層が今後連動して動く可能性が大いにあるということであろう。これらが引き起こす地震の揺れについて、決して過小評価をしてはならない。2016年の熊本地震は1570ガルである。1000ガルに耐える工事をしたからといって、安全とは言えないのである。
能登半島では07年地震(M6・9)以前にも、1729年(M6・6~7・0)、1892年(M6・4)、1896年(M5・7)、1933年(M6・9)などの地震が発生している。過去の地震の頻度をみれば、そもそも原発立地にふさわしくない所なのである。
今回の地震で能登半島の先端部では道路が寸断され、多くの集落が孤立した。もし原発事故が起きれば、住民たちには全く逃げ場はなく、放射能にさらされ続けることになるだろう。
もはや結論は明白である。志賀原発は廃炉するしかない。