連載コラム・日本の島できごと事典 その42《国境離島》渡辺幸重

領海とEEZ(海上保安庁)

近年、日本政府や政治家が急に使い始めた言葉に「国境離島」があります。領海や排他的経済水域(EEZ)などの線引きを行う際に管轄海域の根拠となる基線は国連海洋法条約で「沿岸国が公認する海図に記載される海岸の低潮線等」と定められています。日本は島国ですからその基線となる小島や岩礁がたくさんあります。1987年(昭和62年)の海上保安庁『海上保安の現況』によると、日本にある島嶼は本州島なども含めて6,852島(周囲100m以上)です。このうち、有人60島、無人465島の計525島が「国境離島」とされます(北方四島・竹島地域を除くと484島)。これらの領土から12海里(約22.2km)以内が領海、200海里(約370.4km)以内が天然資源の開発権が認められるEEZとなります。領土問題や海底資源などへの関心が高まっていることから特に近年、「国境離島」がクローズアップされているのです。
日本政府は2010年度(平成22年度)から翌年度にかけて正式な名称が記載されていなかった49島について名称を決め、地図・海図への記載を決めました。これはEEZの外縁を根拠付ける島が対象でしたが、2014年(平成26年)8月には、領海の外縁を根拠付ける158島についても新たに島名をつけました。また、所有者が不明な273島については国有財産として登録することにし、2017年(平成29年)3月までに国有財産台帳への登載を終え、一部の島を除き不動産登記も行われました。2016年(平成28年)4月には「有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法(有人国境離島法)」が成立し、29地域148島が「有人国境離島地域」に指定されました。これの地域を対象に振興策と同時に「日本の国境に行こう!!」プロジェクトが展開されています。
新しく付けられた名前には「北小島」「南東小島」など方角を付けただけというものが多く、地元の漁師に聞けばもっとなじみ深いものになっただろうになんとも味気ない感じがします。ちなみに尖閣諸島をみると、久場島の周りだけでも北小島・東小島・南東小島・北西小島があり、北小島は大正島や魚釣島をはじめ全国各地にあります。
これらの一連の動きは日本国民の生活や安全保障に深い関わりがありますが、一般の関心は低いようです。「国境離島を防衛の拠点に」などという軍事強化の風潮につながることは避けなければなりません。