連載コラム/日本の島できごと事典 その6《“超速”隆起珊瑚礁》渡辺幸重

鹿児島市から南南西約365km、奄美大島の東に浮かぶ喜界島

隆起珊瑚礁の島はたくさんありますが、鹿児島市から南南西約365km、奄美大島の東に浮かぶ喜界島はその隆起速度が速いことで世界的に知られています。
喜界島の地形は台地状で、標高約200mの「百之台」は約12万年前に形成された珊瑚礁といわれてきました。すなわち、12万年前に海面すれすれにできた珊瑚礁がいまは海面から200m高い位置まで隆起したということになります。ざっと計算すると平均で1,000年に1.7m持ち上がったことになります。これは世界でも三本の指に入るくらいの“超速”だといいます。ところが、その後の研究で「百之台」の珊瑚礁段丘は10万年前に形成されたという新解釈が出てきました。その時代の海面は現在より14m低かったので10万年で約214m隆起したことになります。厳密に言うと、喜界島の最高点は214mなので、約230mの隆起かもしれません。いずれにしても喜界島の平均隆起速度は1,000年に2mを超えるレベルになりました。
喜界島は過去7,000年間に少なくとも4回の隆起活動がありました。1000~2000年周期で隆起しており、最近では約1400年前のできごとです。隆起活動が活発な時期にはさらに“超速”だったことになります。
喜界島は10万年前から現在までの珊瑚の化石が積み重なった島なのです。10万年間、隆起するたびに島の周りにサンゴ礁が広がり、また隆起する、ということを繰り返してきました。世界中の珊瑚礁研究者から“珊瑚礁研究の聖地”“奇跡の島”と呼ばれており、島内にはNPO法人「喜界島サンゴ礁科学研究所」があります。
百之台にある芝生の広場が「七島鼻」と呼ばれ、第二次世界大戦中には旧日本軍の電波探知(レーダー)基地がありました。いまはパラグライダーの離陸場として利用され、現代人が10万年前の珊瑚礁を蹴って大空を舞っています。

渡辺幸重
1951年、鹿児島県屋久島生まれ。新聞記者、予備校・塾講師、教育コンサルタント、編集プロダクション経営、大学教員などを経て、ジャーナリスト。「島と海」をライフワークとし、環境、地域、人権、教育、情報社会の問題などに取り組んでいる。