連載コラム・日本の島できごと事典 その170《軽石来襲》渡辺幸重

軽石漂着のSNS報告の推移(「JAMSTEC 海洋研究開発機構」サイトより)

小笠原諸島・硫黄島の南約50キロメートルにある海底火山「福徳岡ノ場(ふくとくおかのば)」が2021(令和3)年8月13日に噴火しました。噴煙の高さは約1万6千メートルにも及び、一時は新島ができるほど大規模なものでした(のち海没)。噴火マグニチュードは推定4.5~5.1と明治時代以降に日本列島で発生した噴火としては最大級で、1914(大正3)年の桜島火山大正噴火に次ぐ規模だったということです。
この噴火によって噴出した大量の軽石などの浮遊物は“軽石筏”となって海上を西北西方向に流され、琉球弧(南西諸島)の島々に漂着しました。黒潮に乗って日本列島を次々に襲うのではないかと大きな話題になりましたが、漂着軽石は再び波に乗って漂流し、小さくなりながら海底に沈んでやがて消滅したようです。

噴火から軽石の漂流までの動きは気象衛星「ひまわり」の画像によっても確認でき、軽石筏が各地に漂着したことも一般の人々がSNSに次々に投稿したので専門の研究者でなくても噴火、漂流、漂着の一連の現象をほぼリアルタイムで知ることができました。今回の事例を科学的事象に誰でもアクセスできる「市民科学」あるいは「オープンサイエンス」の一例としている人もいます。

噴出した軽石は約2ヶ月後の10月中旬になると奄美群島(鹿児島県)や沖縄県の島々に大量に漂着しました。
10月5日、北大東島(沖縄県)にたくさんの軽石が波で打ち上げられているという情報がSNSにアップされました。さらに10月10日には奄美群島(鹿児島県)の喜界島で軽石の漂着が見つかり、島の北東部から全島に広がっていきました。10月12日には奄美大島(同)、翌13日には沖縄島からと次々に漂着軽石の報告がSNSに投稿されています。10月18、19日には産総研地質調査総合センターが沖縄島の本部(もとぶ)半島や国頭村(くにがみそん)で軽石漂流の現地調査を実施しました。軽石の大きさはほとんどが長径0.3~3センチだったものの10センチ以上あるものも含まれ、最大では25センチもありました。11月に入ってからは伊豆諸島(東京都)の伊豆大島や三宅島などでも少量の軽石の漂着が確認されたという報道もありました。

沖縄県は2021(令和3)年10月27日に関係部署を集めた対策チームの初会合を開き、11月17日には全庁体制の「沖縄県軽石問題対策会議」を設置して漂流軽石の情報収集や軽石の除去、回収の具体的方法などについて協議。公式サイトで「沖縄県への軽石漂着状況」を知らせたり、漁港における撤去作業などの対策を始めました。沖縄県によると、国、県、市町村等による軽石の回収量は2023(同5)年5月時点で11万0,454立方メートルに上ったということです。

軽石漂着によって漁業者が漁に出られなかったり、離島航路運航に支障が出るなどの影響がありました。その一方で沖縄県は軽石を利活用するアイデア募集を行い、88件の応募があったということです。その内容はいまでは見ることができませんが、軽石利用の実際を調べてみると、「軽石シーサー」という名前の土産物を制作したり、コーヒー農園の土壌改良剤やピザ窯の外側を覆う断熱材、義肢・義手制作の際の石こうの型などに利用した例が見つかりました。これがその後も続けられているかどうかはわかりません。