現代時評《勝敗分けるドンバス攻防戦》井上脩身

ロシアがウクライナに侵略戦争を始めて4カ月がたった。ロシアは現在東部ドンバス地方に戦力を集中させている。ドンバスを完全制圧して属国にするのがプーチン大統領の狙いであることは、「ネオナチストから守る」とのプーチン氏の発言から見て明らかである。この目的達成ために周到に用意されたプロパガンダの結果であることが、最近上映された映画『ドンバス』を見てわかった。ドンバス地方には「ウクライナ兵はファシスト」と信じて疑わない人が少なくないのである。ウクライナ軍が、NATO諸国からの兵器の支援を得て東部戦線のロシア軍を押し返すことができても、住民たちに植え込まれた反ネオナチス感情を払拭するのは難しい。ウクライナ側にとって、この戦争はいま極めて厳しい局面にさしかかっている。 “現代時評《勝敗分けるドンバス攻防戦》井上脩身” の続きを読む

現代時評《ロシア軍のウクライナ国民排撃レイプ》井上脩身

ロシアがウクライナに侵攻を開始して3カ月余りがすぎたが、戦争が長引くにつれ、民間人に対する殺害などのロシア軍兵士の犯罪行為が次々に明るみに出ている。こうしたなか、信じがたい報道に接した。ウクライナの女性に性交渉を嫌悪させ、結果とし子供を産まなくなることを目的に、ロシア兵がレイプを行っているというのだ。レイプは女性の尊厳に対する卑劣な行為であるが、加えてウクライナ国民としての尊厳そのものを切り裂き、さらには将来生まれるであろう子供をも抹殺する″ウクライナ人全否定レイプ″である。プーチン大統領がいかにウクライナ戦争を正当化しようと、「悪魔の集団犯罪」というほかない。

この報道は5月10日付毎日新聞のコラム「火論」の中で取り上げられた。執筆者は2年連続新聞協会賞の受賞歴がある大治朋子記者。概要は以下の通りである。
ウクライナのメディアによると、兵士によるレイプは4月の前半に市民団体に情報が寄せられた被害だけでも約400件。首都キーウ(キエフ)近郊のブチャでは14~24歳の女性約25人が民家の地下で繰り返しレイプされてうち9人が妊娠した。ロシア兵は女性たちに、このレイプで今後、彼女らが性交渉を嫌悪するようになり、子供を持てなくするのが狙いだと語った。
大治記者はロシア兵のレイプ目的について、「『敵』の子孫の繁栄を阻むため」と表現。ウクライナ人の子供をつくらせないためにレイプしたというのである。
大治記者は「犠牲者の一部は殺されていない」としたうえで「レイプの傷が刻まれた女性をあえて生かすことで、人々に癒えることのない傷と恐怖を刻み込む。それこそがウクライナ社会そのものへの凌辱」と書く。
子供を産めないようにするためのレイプ例はあるのだろうか。調べてみると「アカイエス事件」に行き当たった。1944年、東アフリカのルワンダで50~100万人の市民が虐殺されたジェノサイドについて、国連安保理事会によってルワンダ国際刑事裁判所(ICTR)が設立され、アカイエスという元タバ市長が裁かれた。アカイエスは影響力があり、住民は彼を尊敬、命令に従ったという。
裁判で被害者が「見つけ次第強姦する」と言われたと証言。多くの女性が繰り返し強姦されており、組織的なレイプであることが判明。アカイエスが「唯一の敵を除去するために協力するように」と住民に呼びかけており、実際、レイプの多くはタバ市庁舎の中や近くで行われた。
強姦された女性が、その結果子供を産むことを拒否するようになること、恐怖やトラウマから子供を産めなくなることから、強姦も虐殺などと同様、ジェノサイドの要素とされている。ルワンダのフツ族とツチ族との戦いのなか、フツ族がツチ族を抹殺の手段として公然レイプを犯したとして、アカイエスはジェノサイドの罪で終身刑が言い渡された。
ウクライナ人女性に子供を産ませないために行ったロシア兵の犯罪は、ルワンダでのおぞましい事件と基本的に何ら変わらない。大治記者は「ウクライナ社会への凌辱」と書いたが、「全女性への凌辱」でもある。愛の喜びである性を汚らわしいものにするという点で「人間への凌辱」であり、子供が生まれてこれないようにするという点では「未来への凌辱」でもある。
ルワンダ大虐殺ではアカイエスが裁かれた。ロシア兵のレイプについて本当に裁かれるべきは誰であろうか。
ロシアのプーチン大統領は4月18日、ブチャを攻略したロシア軍兵士の「英雄行為」をたたえ、名誉称号を与えた。英雄行為のなかに、レイプも入っているのであろうか。
プーチン大統領は5月9日の戦勝記念日の演説で「我々の責務はナチズムを倒すこと」と述べた。ナチズムがユダヤ人排撃思想であったことはまぎれもない。「ナチズム打倒」を名目にウクライナ国民排撃戦争に打って出たプーチン大統領。裁かれるべき者はだれの目にも歴然としている。

現代時評《プーチン流「非武装中立」の正体》井上脩身

ウクライナに軍事侵攻しているロシアは4月半ばになって戦力を東部に集中、戦闘はいっそう激化している。ロシアのプーチン大統領がウクライナに求めた「非武装」と「中立」で停戦合意できる見通しは立っておらず、戦争の泥沼化は必至である。そもそもプーチン氏が「非武装中立」を言いだしたのはなぜなのか。「非武装中立」は米ソの東西冷戦時代に旧社会党が掲げたスローガンであるが、プーチン大統領の口から出た途端、弱い者いじめの傲慢な言葉に堕す。そこには21世紀を「米露冷戦時代」にしようとのプーチン氏の野望が透けて見える。 “現代時評《プーチン流「非武装中立」の正体》井上脩身” の続きを読む

現代時評《ウクライナ戦争のなかのオペラ座》井上脩身

オペラ座・キエフ

オペラ座の幕上がる日来よ古都キエフ

私が所属している川柳クラブの3月例会に投句した句だ。ロシアは2月24日、ウクライナに軍事進攻したが、早期決着というプーチン大統領の思惑通りに進まず、長期化の様相を呈している。ウクライナ軍がプーチン氏の想定をはるかに超えて粘り強く反抗、ロシア軍の進撃を阻んでいるためとみられ、激しい爆撃に遭いながらもウクライナ市民はなお耐え抜いている。戦力ではるかに劣るウクライナがなぜ大国・ロシアとここまで渡り合うことができたのか。私は「オペラ座」に読み解くカギがあると考えている。 “現代時評《ウクライナ戦争のなかのオペラ座》井上脩身” の続きを読む

現代時評 《再婚禁止期間廃止の問題点》井上脩身

法務大臣の諮問機関、法制審議会の親子法制部会は2月1日、女性の再婚禁止期間の規程を廃止することなどの民法改正要綱案をまとめた。とくに注目されるのは、「離婚後300日以内に生まれた子も、女性が再婚していれば再婚相手の子と推定」との規定を設ける点で、無国籍の子どもをなくすためとしている。現行民法は1898年に施行されたもので、戦後、憲法が制定されてからも家父長制度的な規定は温存されてきた。今回の答申はその壁に風穴を開けるという意味では意義は大きい。しかし、再婚しないで子が生まれた場合に対する配慮は十分でなく、保守的な家族観が根強く息づいていることをうかがわせる内容となった。 “現代時評 《再婚禁止期間廃止の問題点》井上脩身” の続きを読む