秋田の旅《増田の内蔵》片山通夫

増田の蔵のある商家

通常蔵(土蔵)は表にあって、火事や盗難から中に入れたものを守るというのがその目的だ。だから土壁でその周辺を塗り固め、火事の時に火が入らないよう、実に頑丈に造られている。落語で「味噌蔵」と言うのがある。味噌は火事の時の目張りに使う。詳細は後ほどあげておく。

さて秋田県横手市増田は不思議な蔵を持つ地域だ。内蔵なのである。内蔵とは外部からはそれとわからない。大方の蔵はその家にとって重要な文物を収納するのにつかわれる。時代劇では千両箱が積まれていたり…。
しかしここ増田の内蔵は少々趣が違う。蔵であっても外からは倉庫程度にしか見えない。ところが家の中では立派な蔵でその扉なども実に美しい。左官職人が腕を競った結果なのだと思う。

内蔵の特徴のひとつは「座敷蔵」なのだろう。立派な座敷が蔵の中にしつらえている。通常の生活もしていたそうだ。無論、床が板張りで、履物を脱いで内部に入る。内蔵の中には結婚式なども行われた座敷蔵もある。つまり儀式用の蔵である。こんな蔵は何年に一度利用されるのだろうか。この点を聞くのを忘れた。ただ筆者は内蔵が立派過ぎて贅沢で口をあんぐりあけていただけだったと思う。商店という不特定多数の人間が常に入り交じる状況で、家族や従業員以外の者も多く住まう家の中、内蔵だけが唯一当主や家族のためだけに存在する、世間から隔絶された空間であったのかもしれない。

ともあれ、大金持ちの商人にとっては、お金を使う場所、またお金を秘蔵する場所に困っていたのだろうと察した。
度胸のない筆者にとってはただただ驚きの内蔵だった。

参考

内蔵の構造など https://www.city.yokote.lg.jp/masuda/1003586.html
落語・味噌蔵 http://sakamitisanpo.g.dgdg.jp/misogura.html