東日本大震災から15年がたった3月11日、わたしは横浜市のミニシアターで、津波で多くの児童が亡くなった悲劇のその後を追った映画『生きる』を見た。「学校は子どもの最期の場であってはならない」との訴えに強く感動して帰ると、イラン戦争において米軍が女子小学校を爆撃、160人を超える女児の命を奪ったとのニュースが流れた。イラン最高指導者、ハメネイ師を「アメリカ国民を守るため」として殺害したトランプ大統領は、小学校空爆について「知らぬ」と文字通りそ知らぬ顔だ。調べてみると、太平洋戦争で大分県の離島の小学校が授業中に米軍の空爆に遭い、127人の児童が死亡した。戦争は今も昔も「学校を子どもの最期の場」にするのである。そのような戦争を命じた大統領をわたしは断じて許すことができない。津浪被害の小学校
ドキュメンタリー映画『生きる』には「大川小学校 津浪裁判を闘った人たち」の副題がついているように、宮城県石巻市立大川小学校の遺族である父母たちの悲痛な記録である。19,775人が死亡、2550人が行方不明(2024年3月1日現在)になった東日本大震災で、北上川の河口付近に位置する大川小学校は津波をもろに受けた。同校のすぐ裏の山はシイタケ栽培や野球のボール拾いなど、子どもたちの勝手知った所。校舎から走れば1分、歩いても数分で津浪が届かないところまで登ることができ、津波を受けた小学校のなかでも、助かる確率の高い立地だった。
児童たちは地震の揺れが収まったあと、教師の指示で校庭に集合。「津浪が来る」との知らせを受けた後、「山に逃げよう」との声が出たとも伝えられるが、裏山に逃げださずに校庭にとどまる。やがて三角地帯とよばれるところに移動しはじめとき、校舎の屋根を超える津浪が襲ってきた。全校児童の7割に当たる74人と教師10人が津浪にのまれて死亡した。
被害児童の父母は子どもが死んだ真相を知りたいと、市の教育委員会幹部らと何度も話し合いを行ったが、納得できる答えを得られず、児童23人の遺族が2014年3月、「学校の防災体制に不備があった」として、石巻市と県を相手取って提訴。2018年4月、仙台高裁が原告の主張を認めて学校側の過失を判示。2019年、最高裁が上告棄却し、高裁の判決が確定した。
映画は父母と市教委の話し合いなどを克明に追い、「学校は子どもの最期の場であってはならない」との高裁の裁判長の言葉で締めくくった。2022年に公開され、今回、アンコールとして上映された。
太平洋戦争での学校襲撃
いうまでもなく、大川小学校の悲劇は自然災害によるものである。引率した教師に常識的な判断能力があれば防げる悲劇であった。では、戦争という究極の人災では、いったいだれに責任があるのだろうか。
大分県津久見市の保戸島にある保戸島国民学校(小学校)で、米軍機が投下した爆弾が炸裂したのは太平洋戦争末期の1945年7月25日。保戸島は2200人の住民が漁業などで暮らす周囲4キロの静かな島だ。同校には500人の児童が通っていた。授業が始まったばかりのとき、突然、米軍の戦闘機が校舎を爆撃、さらに崩れ落ちた校舎や校庭に機銃掃射を浴びせた。児童たちは校舎の下敷きになったり、機銃掃射の弾に当たったりして、バタバタと倒れる。阿鼻叫喚の地獄と化し、児童124人と教師2人、教師の子ども1人が犠牲になった。命からがら助かった人たちは後年、「大分の空襲では、山がまっ赤になった。でもこの島は変わらぬ平穏な日常が続いていた。まさか、地図にも載らないこの島に米軍が爆弾を落とすなんて、夢にも思わなかった」と語った。だが、島には日本の海軍の対潜監視・通信施設が設置されていた。米軍がこの施設を攻撃目標にしたとみられる。腕の未熟な戦闘機パイロットの誤爆と思われるが、戦闘員はもちろん、米軍のだれ一人、保戸島国民学校児童殺しの咎を問われることはなかった。
AI時代の小学校誤爆
イラン南部ミナブの女子小学校が爆撃に遭ったのは今年2月28日。米軍とイスラエル軍がイランへの軍事攻撃を開始したまさにその初日、米軍のミサイルによって、女児160人以上が死亡した。
トランプ大統領は当初「イランによるものだ」と米軍の関与を否定した。しかし現場近くでミサイルが着弾する様子をとらえた映像の検証結果から、複数の米メディアはミサイルが米軍のトマホークと特徴が一致していると報道。イランはこのミサイルを所持しておらず、米軍が発射したもの判明した。この小学校はイラン革命防衛隊の海軍施設に隣接しており、過去には基地の一部として使用されていた。現在は基地と学校はフェンスで仕切られているが、米軍は国防省傘下の情報機関「国防情報局」(DIA)から提供された古いデータに基づいて学校を攻撃目標に設定したもので、誤爆したとみられている。
米紙ニューヨークタイムズは「過去数十年で最も破壊的な軍事的過ち」と批判。中国外務省の報道官は「学校への攻撃は重大な国際人道法違反。人間の良心や道徳の根本的な一線を超える行為」と強く非難し、「中国紅十字会がイラン赤新月社に対し緊急人道支援として20万ドルを寄付する」と発表。この寄付金は遺族への弔慰金と補償金に充てられる予定だ。国際的な批判や非難の声があがるなか、トランプ大統領は誤爆について問われると、「知らない」とそっけなく答えた。
小学校攻撃翌日の3月1日、米軍はイラン最高指導者、ハメネイ師の邸宅を爆撃して殺害した。その後の報道によると、イスラエルと米中央情報局(CIA)を含む情報機関は数カ月にわたってハメネイ師を監視。どこに住み、だれと会うかなどの行動パターンを掌握し、2月28日午前に首都テヘランの執務室を備えた自宅敷地内で会合を開くことをつかんだ。米軍は当初予定の夜間攻撃を午前に変更し、殺害目的を達成。トランプ大統領は「我々の情報網と極めて高度な追跡システムを(ハメネイ師は)回避できなかった」と語り「10点満点の15点」と自画自賛した。
AIを駆使して精密な攻撃目標を設定、正確に攻撃できる米軍である。ハメネイ師殺害は戦争もまたAI時代に入ったことを如実に示したといえるだろう。ならばなぜ、小学校を誤爆したのであろうか。「どんなことがあっても、学校だけは避けろ」とトランプ大統領が厳命していたら、米軍の戦闘指揮官も注意のうえにも注意をしたであろう。だが「誤爆だから仕方ないだろう」とばかりのそっけないトランプ氏の態度をみると、人道精神はひと欠片もないと断ずるほかない。そのような人物がアメリカの大統領としてイラン攻撃を命じたのである。
ウクライナでは2022年にロシアが戦争をしかけて以来、累計1611校(2025年11月末現在)の学校が戦争によって損傷を受けた(ユニセフのホームぺージ)。ユニセフのウクライナ事務所のムニア・ママサテ代表は「学校は戦時下においても子どもが安全に学ぶことができる、保護された空間でなければならない」と語る。わたしは本稿のなかで、大川小学校の津浪被害のケースを取り上げて、「学校は子どもの最期の場であってはならない」との訴えを紹介した。ママサテ氏の苦悩も併せ考えると、この言葉は自然災害に際してだけでなく、戦争においても共通する人間としての最低限の指針であることを表している。相手国の国民を虫けら扱いして平然と命を奪うトランプ大統領、ロシアのプーチン大統領、イスラエルのネタニヤフ首相、その他戦争をしたがる世界中のリーダーに強く訴えたい。一滴でも血が流れているならば、せめてこれだけは守るべし。「学校を子どもの最期の場にするな」