笑顔の高市早苗・自民党総裁が鬼の形相になった。今月10日、公明党の斉藤鉄夫代表から連立離脱を告げられた直後の記者会見でのことだ。自民党の総裁選中、人前では笑顔を絶やさず、勝利が決まると「ついに石破から総理の座を奪い取った」とばかりに満面に笑みを浮かべた高市氏だが、公明離脱のショックから、報道陣の前で素顔を表してしまったのだ。わたしは1カ月前から、毎朝笑顔をつくるようつとめている。「笑顔は健康のもと」という新聞記事をみたからだ。という次第で、高市氏の笑顔にわたしは関心をもった。彼女の笑顔は心からのものなのか、作ったものかと。結局、怖い顔を隠すために政治的に作ったに過ぎなかったのである。余りの狼狽からボロを出してしまった高市氏をみて、わたしは思った。破顔ならぬ破党の始まりではないかと。 笑顔を作ると、幸せホルモンの分泌が促されて気分が明るくなると9月半ばの新聞記事にあった。それで健康になれるのならと、わたしは小箱にあしらわれたアンパンマンの顏をみつめながら、約5分間笑顔を作ることにしたのだ。始めたのが自民党の総裁選が話題になりだしたころなので、高市氏の笑顔に注目するようになった。新総裁に選出されたときは、幸せホルモンがどっと分泌したのであろう、心からの笑いにつつまれた高市氏であった。注目すべきは、斉藤氏との連立協議をする直前の表情である。連立離脱を告げるつもりの斉藤氏が厳しく顏を引き締めているのに対し、高市氏はいつものように微笑を浮かべている。連立離脱を申し渡されるとは、夢にも思っていなかったことを表しているではないか。会談後は冒頭に述べた通りだ。怒りが心頭に発したのであろう。頭に角を二つつければ鬼女そのものであった。
思わず顏に現れた形相が、高市氏の公明党に対する姿勢を表しているように思った。安倍晋三政権下での集団的自衛権行使容認の閣議決定の際、「平和の党」を掲げる公明党はしぶりながらも、結局その決定を承認。森友問題、桜を見る会問題など、安倍氏の強権姿勢に非難が湧きあがった際も、公明党は事実上黙認してきた。公明党は「恥も外聞もなく自民党にしがみついている」とみられても仕方なかった。
高市氏は第2次安倍内閣と第4次安倍内閣で総務大臣に登用されるなど、安倍氏から強く引き立てられ、高市氏自身、安倍氏を尊敬していた。その安倍政権下における公明党の態度をみて、どこか見下していたのではないだろうか。高市氏は「安倍政治復活継承」のおもいを込めて総裁選を戦い、勝ち取ったのである。その高市氏としては、公明党は「しがみついてくるはず」であった。それが何と、「サヨナラ」を告げにきたのだ。
わたしは連立離脱の報に「公明党にも骨があったのか」と驚いた。高市氏にはその骨が顏に突き刺さり、笑顔が消えたわけだ。笑顔が消えるのはいいとして、26年間一緒にやってきた相手に鬼の形相を向けるとはどういうことだろう。高市氏の笑顔は、人を見下すという彼女の本性を隠すためだったのかもしれない。
公明党抜きの政治運営を、高市氏が笑顔を絶やさずできるかどうかわからないが、笑おうが笑うまいが、わが国経済の立て直しは急務である。
わが国の経済成長がピークに達していた1980年、日本のGDPは1兆1293億ドルであった。2000年は4兆9683億ドル、2025年(予測)は4兆1864億ドルである。日本は1980年から2000年まで4・4倍に増えたものの、2000年以降は全く伸びが止まり、むしろ下降傾向である。参考までにアメリカと中国のGDP(単位ドル)は次のとおりだ。
1980年=アメリカ2兆8573億、中国3035億▽2000年=アメリカ10兆2509億(1980年比3・6倍)、中国1兆2203億(同4・0倍)▽2025年(予測)=アメリカ30兆5072億(2000年比3倍)、中国19兆2317億(同15・8倍)
アメリカは1980年から2000年、2025年とおおむね3倍の伸びを示し、堅調である。中国の2000年からの経済成長はすさまじく、この25年間で16倍近くもGDPが伸長。アメリカと中国に挟まれた日本だけが谷間に落ち込んだ形だ。
「失われた30年」といわれ、なお先行きは見通せない。この打破のためと称して高市氏はアベノミクスの二番煎じのごとく、「サナエノミクス」を標榜、積極財政策をとる構えである。
アベノミクスは(1)大胆な金融政策(2)機動的な財政政策(3)民間投資を喚起する成長戦略――の3本の矢からなる。要するに、産業界にカネをジャブジャブ投入し、経済・産業活動を活性化させようというものだ。だが、GDPの上では全くその成果が表れず、エコノミストの多くは「失敗だった」と指摘。こうしたなか、高市氏は「アベノミクス継承」を掲げるのである。GDPが下降傾向にあるなか、積極財政を展開して果たして効果があるのだろうか。アベノミクスによって円安が進み、輸入品の価格が上昇。加えてウクライナ戦争の影響で物価が高騰、さらにトランプ関税が輸出産業にダメージを与えるとみられ、安倍政権当時よりもマイナス要因が増えている。この現状でカネをジャブジャブ投入することは、経済を上向きにできないだけでなく、財政赤字を増やすだけになる可能性が高い。
高市氏は閣僚時代も靖国参拝を欠かさず、選択的夫婦別姓制度導入に反対するなど、右翼的政治姿勢を大っぴらにしてきた。今年4月、高市氏は台湾の頼清徳総統を訪ね、連携を深めていくことなどを話し合っており、高市氏では、日中関係がきしむことは避けられない。もはやアメリカと肩を並べかねないほどの経済大国となった中国は、わが国の貿易相手国のトップである。政治的、・外交的きしみはわが国の経済にマイナスであることはいうまでもない。
アメリカ、中国という、相反する経済・軍事勢力を両翼にかかえる日本のリーダーに求められるのは、日米、日中関係を的確に仕切る鋭い才覚と幅広い人格である。高市氏にその器量がないことは、鬼の形相が示している。だが、公明抜きの少数与党にやせ細ったとはいえ、高市氏の下で国政を進めるしかない。経済的に下降カーブをこのままたどるならば、高市氏への失望感にとどまらず、自民党の弱体化を加速させることになるであろう。
このように見ていくと、公明党にとって、高市氏と手を組むことは、連帯責任をさらに負い続けることを意味する。斉藤鉄夫代表は「政治とカネの問題の解決に自民党が本気で取り組んでいない」ことを連立離脱の理由に挙げたが、もっと深い思いが込められていたとわたしは思う。
本稿の最後に、これだけは付け加えておきたい。高市氏は総裁選中「奈良の鹿を蹴飛ばした外国人がいた」と語った。わたしはトランプ氏が大統領選中「(中南米)移民がペットを食った」と発言したことを思いだした。高市氏の外国人(おそらくアジア、アフリカ人)へのあからさまな差別観。この一点でわたしは「高市ノー」なのである。わたしは公明党を支持しているわけではないが、「高市ノー」を突き付けた公明党に拍手喝采を送りたい。