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【609 Studio】email newsletter 2025年9月23日 #1225
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世界のニュース、元毎日新聞・井上脩身氏のコラムなど多彩な話題満載!
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◆現代時評《石破おろしを読み解く》井上脩身
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石破茂首相は9月7日、記者会見で退任を表明した。7月20日の参院選で
自民党が大敗した責めを問う「石破おろし」の風が吹くなか、続投の意欲をし
めして抵抗した石破氏であったが、刀折れ矢尽きたのだ。2024年10月1
日に首相に選任されて以来、わずか1年の短命政権におわった。さっそく「三
木おろし」との類似点を探る論調がネット上にあらわれるなど、あいもかわら
ぬ自民党の内輪もめ体質に識者から冷たい目が向けられた。
その石破氏と三木氏。実はわたしが出会ったことのあるただ二人の首相になっ
た政治家である。わたしの印象にも、両氏に共通点があった。「なんともとっ
つきにくく、やりにくい人」なのである。だから仲間が少なかったのであろう。「数は力」の党内にあって、少数派は蹴散らされる運命にあったのである。
まずは両氏との出会いから。
鳥取の親しくしていた書家が自治大臣表彰を受け、鳥取市のホテルで開かれた
祝賀会に招待されたのは2002年のことだった。わたしのテーブルはとんで
もない特等席で、正面に平井伸治知事、右が石破氏の席だった。石破氏は小泉
内閣の防衛庁長官として初入閣したばかり。多忙をきわめ、遅れて来るという
ことで、代わって佳子夫人が座っていた。新聞社に長く勤めていたわたしの初
任地は鳥取で、当時、石破氏の父・二朗氏が知事だった。というわけで、佳子
夫人とは二朗氏についての思い出話で会話がはずんだ。
やがて石破氏本人が到着。佳子夫人が席をたち、石破氏がドッカと席についた。
わたしが名刺をさしだすと、横目でジロッとわたしをにらんだ。その白目にど
ろっとした威力があり、わたしはおもわず身がすくみ、ついにひと言も交わさ
ずじまい。ほどなく石破氏の支持者らがテーブルにやってきて、石破氏は次々
に握手。そのようすを横から見あげていると、作り笑いをしている石破氏の目
は硬いまま。笑顔になるのが苦手なのだとおもった。
三木氏を東京・南平台の私邸に訪ねたのは1985年の春だった。本四架橋・
明石――鳴門ルートの大鳴門橋の完成を間近に控え、徳島出身の政治家として
の思いを語ってもらうためであった。三木氏が1976年に首相を退いて9年
がたっていたが、私邸の大きなホールの向こう端から姿を見せた三木氏は気迫
がみなぎっていた。わたしのすぐ前の席についた三木氏はじっとわたしを見す
える。その眼光の強さにわたしはたじろぎ、体がコチコチになってしまった。
「淡路島と鳴門の間の橋の実現に、わたしはだれよりも力を注いだ」と三木氏
は語りはじめた。だが、その口調はなめらかではなく、質問と答えがかみあわ
ない。いま思えば、「後藤田のやろう」という苦々しさが三木氏の胸にあった
のであろう。開通式では先頭の知事の車の次が中曽根内閣の閣僚だった後藤田
正晴氏の車、三木氏の車はその後ろだったのである。
三木氏が首相になったのは1974年12月。信濃川河川敷の買収をめぐる
田中ファミリー疑惑に端を発した田中金脈問題で第2次田中内閣が総辞職した
あと、いわゆる椎名裁定で三木氏に白羽の矢がたったのであった。党内の最小
派閥を率いながら、外務大臣などの要職に就き、「バルカン政治家」といわれ
た三木氏。すでに3回、総裁選に出馬していずれも敗北しており、総裁・総理
の目はないとみられていたが、自民党への金権批判をかわすためには、「ク
リーン三木」を担ぎ出すしかなかったのである。
三木政権発足から1年余りたったころ、ロッキード事件が沸き起こった。ロッ
キード社の新型旅客機トライスターの受注をめぐる贈収賄事件で、田中前首相
が賄賂として5億円を受け取ったなどとして1976年7月、逮捕されたので
ある。事件の解明のうえで三木首相に期待する声が少なくなかったが、党内で
は逆に逮捕を阻止しなかったとして三木氏に反発、田中派を中心に、「三木お
ろし」が巻き起こった。
こうしたなか、同年12月、任期満了にともなう衆院選が行われ、自民党は当
選249議席と、1955年の結党以来初めて過半数を割りこみ、三木氏は敗
北の責任をとって退陣した。
石破氏が首相になったのは、三木退陣から49年後であった。十数人という
小派閥(2024年9月に解散)のリーダーでもある石破氏は総裁選に4回挑
み、そのつど安倍派を中心とする主流派にはねかえされてきた。2023年、
政治資金パーティーにともなう安倍派の組織的裏金問題が発覚。政治とカネに
まつわる自民党の体質に国民から厳しい目がそそがれるなか、2024年9月、
総裁選が行われ、石破氏が決選投票で安倍派から支援を受けた高市早苗氏を破
って勝利したのである。
国民は金権政治からの脱却を石破氏に期待した。だが首相就任間なしの10
月に実施された衆院選では、公示前の247議席から191議席に激減。安倍
派への遠慮からか、選択的夫婦別姓制度導入などの期待にそった政策を打ち出
せず、新規政策としては防災庁設置を見すえた準備室を発足させた程度にとど
まった。
2025年に入って、トランプ大統領が求める相互関税の対応に追われるなか
で行われた7月の参院選では改選52議席から39議席に大きく減らし、衆参
ともに少数与党となった。参院選の結果が判明するとともに、旧安倍派を中心
に石破氏の責任を追及する動きが活発化。党所属国会議員、自民党都道府県連
の半数以上が「総裁の首すげ替え」を求めているとみられ、石破氏は続投を断
念せざるをえなくなった。
前項でみたように、三木・石破両氏は似通った点が多々あることは確かだ。
ともに小派閥、派閥解消を主張するなどの党内リベラル派、総裁選出馬回数多
くかつすべて敗北、金権体質表面化後に得た総裁・総理の座。この裏がえしと
して政権の座を失った主流派からの引きずりおろし運動、選挙で負けた責任の
おしつけ。結局は政治とカネの問題で失った支持回復のためにやむなくかつぎ
あげた一時しのぎ総裁・総理に過ぎず、それでも選挙に勝てないとなると、よ
ってたかってたたき落としにかかる、という構図である。自民党はこの50年、
なんら変わっていないのである。
だが大きな違いがある。まず首相の政治家としての出自について。三木氏は
戦時中に行われた翼賛選挙で、翼賛政治体制協議会の推薦を受けずに立候補し
た。いわば徒手空拳の出馬で当選した政治家だ。一方の石破氏は、鳥取県知事
のあと参院議員になり自治大臣を務めた石破二朗氏の死後、衆院選に出馬した
二世議員である。ともに若いときから政界で活躍しているが、三木氏がしたた
かな保守政治家であるのに対し、石破氏は理論派保守政治家である。
自民党自体の容量と力量がまったく異なる。三木氏が総理・総裁を競ったこ
ろは三角大福中の時代であった。三木氏のほか田中角栄、大平正芳、福田赳夫、
中曾根康弘各氏が派閥の領袖として権力闘争を繰り返していたが、それができ
るほどに自民党は巨大な政党だった。なによりも、当時、この国の経済力が上
昇気流真っただ中。田中内閣が生まれた1972年、わが国のGDPは初めて
200兆円を超え、中曽根内閣が終わる翌年の1988年には400兆円に達
した。三角大福中の時代にGDPは2倍に膨らんだのだ。だれがなっても、経
済は着実に右肩上がりをしたのである。
現在はどうか。1991年のバルブ崩壊後 、我が国のGDPは500兆円
前後で推移、ほとんど上昇せず、今年、ドイツに抜かれて4位に後退、今年度
中にもインドに抜かれるとみられている。経済力の衰えは当然のことながら自
民党の衰えにつながり、連立を組む公明党を入れても衆参ともに少数与党とな
った。党の衰えと二世議員の増加は鶏と卵の関係であろう。結果として、政治
家のレベルも低下した。10月4日に行われる臨時総裁選に立つ政治家が、い
ずれも三角大福中に比べると小物、との印象はぬぐえない。
もうひとつ、見落としてはならない違いがある。新党である。
三木氏が退任する半年前、河野洋平氏ら自民党の若手が「保守政治の刷新」
をかかげて新自由クラブを結成、三木退任の原因となった衆院選で17人を当
選させた。石破氏が敗北責任をとることになった今年の参院選では新興の参政
党が14議席を得た。新自由クラブが政治倫理を重視した改革保守であるのに
対し、参政党は天皇主体国家を目指す極右保守。保守新党の面からみると、こ
の国が戦後保守から戦前保守へと逆回転していることがうかがえる。
三木おろしのときも、今回の石破おろしに際しても、「コップのなかの嵐」
といわれた。だが、そのコップの大きさ、分厚さがまるでちがうのであるが、
そのコップはアメリカというテーブルの上のコップである。そのテーブルが別
物といっていいほど違うのである。
自民党が結党以来70年間、細川護熙政権(1993年8月~1994年4
月)、民主党政権(2009年9月~2012年12月)を除いて政権の座に
つき続けてこられたのは、アメリカ一辺倒政策さえとっていれば無難に国のか
じ取りができたからである。自由と民主主義を基調とするアメリカは西側陣営
を守る超巨大国家である。したがって、自民党というコップを支えるテーブル
は、頑強で確固たるものであった。政府はアメリカとの緊密な関係の維持につ
とめ続け、それが貿易にも反映、自動車をはじめアメリカへの輸出が拡大し、
経済成長につながった。
アメリカへの信頼は、トランプ大統領の出現でグラグラッと揺るぎ出した。
民主主義や人権に背を向ける大統領をアメリカ国民が選んだのは、アメリカの
経済力に陰りが見えたからにほかならない。アメリカの経済成長率はここ10
年、おおむね2%台で推移しているが、今年、1%台に落ちると予想されてい
る。もしそうなればトランプ氏の求心力が著しく低下する。それをおそれて貿
易赤字解消をもくろみ、わが国をはじめ各国に高い相互関税を求めるのだ。恐
喝にちかい強引な手法で自由主義陣営の各国に対しても要求をのませるトラン
プ氏にとって、自由も民主主義も人権も、何ら価値のないものなのであろう。
自由と民主主義という支柱のないテーブルに、自民党というコップがのりつづ
けていれば、早晩、ずりおちるにちがいない。わたしは、トランプ氏の関税攻
勢に対し、「なめられてたまるか」と公然と言い放った石破氏に拍手喝采した
ものだ。
三木氏が1988年になくなって6、7年後、徳島市の野球場で三木夫人の
睦子さんと出会った。社会人野球四国大会を前に審判講習会が行われ、わたし
が大会の主催新聞社の一員として立ち会っていると、睦子さんが知り合いの審
判員を訪ねてきたのだ。「野球はルールを守らなきゃならないように、政治は
憲法を守らなきゃ」という睦子さんと大いに意気投合したのであった。
今年、トランプ氏が2期目の大統領に就任したことで、わが国の政治は一寸先
も見えないカオスのなかに入りこんだ。アメリカ一辺倒政策を続けるのか、脱
却して距離を置くのか、中国とどう向き合っていくのか――。暗中模索の今こ
そ、戦後政治の原点である憲法の理念に立つべきだとわたしは思う。平和主義
と国際協調主義を貫き、地球環境を守るとの立脚点にたてば、国のかじとりを
誤ることはないはずである。
だが「憲法改正」の声ばかりが大きくなる現実をみると、悲観せざるを得ない。
三木政権が倒れるのと入れかわるように生まれた新自由クラブは10年後、自
民党に吸収された。参政党はどうなるだろう。わたしは、自民党から参政党に
移る議員が続出し、参政党が肥大化するのではないかとおそれる。三木おろし
から半世紀。石破おろしは自民党の終わりの始まり、さらには戦後から戦前へ
の回帰の始まりを表しているのである。
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◆今週のTOPIX 250904現在
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〔地震〕
*【南海トラフ地震】「想定よりも早まる可能性も」 専門家の間で浮上する
「2035年説」vs「2038年説」…死者数29万8千人の現実味
https://dot.asahi.com/articles/-/264168
*地震情報は日本国内においては気象庁が地震に関する情報(震度・震源など)の発表を行うものである。
気象庁 地震情報
https://www.data.jma.go.jp/multi/quake/index.html?lang=jp
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◇編集長から:片山通夫
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今週は井上脩身氏の現代時評をお届けする。
氏は鳥取や徳島の支局で取材活動を長く経験された。その経験は三木おろし
や石破おろしと言う稀有な自民党内の嵐をつぶさに見てこられた。
「旧統一教会の韓鶴子総裁、黙秘権使わず聴取に応じる」とはソウル発のニ
ュース。韓氏は今のところ特別検察官の取り調べに応じているようだ。我が国
の議員たちは「逃げる」が「とぼける」かそれとも「秘書などのせい」にする。
いずれにしても、ソウルの取り調べを固唾を呑んで見ているのだと思う。いや
怯えてる?
常軌を逸したイスラエル
*イスラエルが他国の首都を平気で攻撃する国になった。今度はガザで地上戦。
*イスラエル軍がガザ市に地上侵攻 パレスチナ住民は避難
*ガザ市住民、死を覚悟 「最もつらい夜」 イスラエル軍侵攻
*「常軌を逸した爆撃」 イスラエルのガザ市攻撃、住民は避難急ぐ
*「強制移住」に「82%の土地併合」…イスラエルをおそるべきパレスチナ人の排
除に駆り立てるのは、「民主的なユダヤ人国家」という矛盾した理念
*イスラエル、ガザ市住民向け避難ルート開放「48時間限定」
また「ネタニヤフ氏、今後も外国でハマス指導者を攻撃と 可能性を否定せず」
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発行日 2025年9月23日 #1225
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