現代時評《一枚の写真》片山通夫

焼き場に立つ少年

既にご存じの方も多いことだと思う。この写真は「焼き場に立つ少年」と名付けられたアメリカ人のカメラマンが1945年長崎で撮ったものである。写真は歯を食いしばって一点を見つめる少年の姿を、おそらく彼の前で燃やされている火を見つめているさまが的確に捉えている。焼き場というタイトル名から、その火が火葬の火であることが理解できる。

ナガサキは、1945年8月6日のヒロシマに続いて8月9日に原爆が投下された都市である。爆心地は現在の平和公園付近で、約7万4千人が死亡、建物も多くが焼失または倒壊した。その爆弾の犠牲だと思われる写真の少年の背には、既に亡くなった彼の弟が写っている。写真の説明によると少年は火葬の順番を歯を食いしばって待っているのだ。
筆者もカメラマンの末席を汚している。こんな場面に出くわしたら、やはりシャッターをきると思う。幸いにしてまだそんな場面には出くわさないが。

先の参議院選で、保守系と言うか、極右系の政党が躍進した。候補者の一人は、「核武装しなければならない」と選挙運動時にのたまった。簡単に核武装しなければというが、どれほどの認識でそういっているのかは不明だ。筆者から言わせれば、実に無責任だ。この演説をテレビで知った時、頭に浮かんだのは、この「焼き場に立つ少年」の写真だった。ヒロシマやナガサキの核爆弾の被害を少しは勉強してもらいたいを強く思う。

また筆者が沖縄で取材した時に感じたひめゆりの塔に関して、自民党の西田参議院議員の言葉が胸に刺さる。
氏は「ひめゆりは「歴史の書き換え」だと放言した。あの戦争から80年が経つ。彼は67歳だという。半世紀以上も生きてきて、何を勉強してきたのだろうと、愕然とする。勿論思想の自由はある。しかし史実の前に、それがフェイクとは通常の感覚では言えないだろう。
https://www.asahi.com/articles/AST571S1TT57UTIL00NM.html

どんどん右傾化、戦争や政治家のスキャンダルはなかったことにしようとする動きが活発だ。あったことをなかったことにするのは虚しくはないか?
きっと自分に自信がないのだと思う。

参考

焼き場に立つ少年
The Boy Standing by the Crematoryは、アメリカ合衆国のカメラマン、ジョー・オダネルが1945年に撮影したとされる写真である。写真の原題は「焼き場にて、長崎、1945年」(英: Cremation Site, Nagasaki 1945)。