連載コラム・日本の島できごと事典 その175《島の富士山》渡辺幸重

トカラ富士(中之島・御岳:「大分の山・登山記」サイトより)

島には珊瑚礁に囲まれた低い島から火山が噴火する高い島までさまざまな島の形があります。その中で円錐状のコニーデ型火山の島は海上にそそり立つ姿が美しく、よく“○○富士”と呼ばれます。津軽富士(岩木山:青森県)や讃岐富士(飯野山:香川県)、薩摩富士(開聞岳:鹿児島県)などと同じパターンですが、島嶼部に存在する“富士山(郷土富士)”を『新版 日本の島事典』(三交社)で調べてみました。 観光パンフなどでよく見るのは北海道・利尻島(りしりとう)の“利尻富士”(利尻山:1,721m)と東京都・伊豆諸島八丈島の“八丈富士”(西山:854.3m)でしょう。利尻富士は日本百名山の一つに数えられています。八丈富士は伊豆諸島の最高峰で、1487(長享元)年から1605(慶長10)年までに5回の噴火記録があります。1963(昭和38)年8月には八丈島発羽田行き旅客機が離陸直後に八丈富士に激突し、19人が死亡するという事故がありました。

郷土富士として同じ異名を持つ山もあります。熊本県・天草諸島に属する産島(うぶしま:261.6m)、高杢島(たかもくじま:138.2m)、天草上島の龍ケ岳(469.3m)はいずれも“天草富士”とも呼ばれています。天草上島から見える多島海は日本三大松島の一つで、龍ケ岳は“松島富士”という別称もあります。

長崎県・平戸諸島宇久島の城ヶ岳(258.4m)は“五島富士”の異名を持ちます。長崎県など宇久島を平戸諸島としていますが、五島列島の北部に連なるため一般には五島列島に含むとされることが多いので“五島”を冠しているのです。

北方四島にも“故郷富士”があります。千島火山帯が東西を貫く国後島(くなしりとう)では最高峰で二重カルデラ火山の爺爺岳(ちゃちゃだけ:1,772m)が“国後富士”と呼ばれ、択捉島(えとろふとう)では阿登佐岳(あとさだけ:1,209m)が“択捉富士”と呼ばれます。

瀬戸内海では山口県の屋代島(周防大島)の嵩山(だけさん:618m)が“大島富士”と呼ばれて親しまれています。また、正式名称に“富士”の言葉が入っている山もあり、愛媛県の興居島(ごごしま)には“小富士”、広島県の似島(にのしま)には“安芸小富士”(277.8m)、金輪島(かなわじま)には“金輪富士”(158m)があります。興居島の小富士は“伊予小富士”、“小富士山”とも呼ばれ、俳人・正岡子規が「鶏なくや 小富士の麓 桃の花」と詠んだ名峰です。

ここまで故郷富士を紹介しましたが、実は屋久島(鹿児島県)の南部で生まれ育った私がもっとも親しんだのが“トカラ富士”と呼ばれるトカラ列島・中之島の御岳(おたけ:979m)です。西日本火山帯(霧島火山帯)に属するトカラ列島最大の島をなおも雄大に写し、水平線上に円錐形の姿が絵のように美しかったことを今でも思い出します。

日本離島センターは2016(平成28)年11月、21都道県76市町村93島から100山を選定した「しま山100選」を発表しました。ここで紹介した故郷富士では利尻山、八丈富士、安芸小富士、嵩山、小冨士山、城ヶ岳、御岳が入っています。

地元での愛称として故郷富士もたくさんありそうです。「静岡県・ふるさと富士写真館」サイトhttps://www.pref.shizuoka.jp/kankosports/kanko/mtfuji/1040329/index.htmlには全国の故郷富士の写真がたくさんあります。本当に富士山に似ているか楽しみながら調べてみてください。