参政党が大躍進し、自民・公明の与党が惨敗した参院選。SNSの駆使によってフェークニュースが飛び交うなど、さながら昨年11月の兵庫知事選の国政選挙版であった。こうしたトランプ型選挙は、当落にどう影響するのであろうか。NHKから国民を守る党(NHK党)の立花孝志党首は同知事選と今回の参院選に立候補した。立花氏の選挙にそのカギがあるのではないか、と考えて立花氏の選挙結果を点検した。 すると知事選と参院選の得票の間にある一致点がうかびあがった。それは斎藤元彦氏の当選の公正さを疑わせるものであった。選挙は民主主義の基本といわれる。だがトランプ型選挙は民主主義を内部から崩壊させるものなのである。
昨年の兵庫知事選をおさらいしておこう。斎藤氏のセクハラに関する内部告発者に対する懲戒処分に端を発し、県議会が斎藤知事不信任決議をしたことから選挙が実施されることになった。序盤、元尼崎市長の稲村和美氏が優勢と伝えられ、斎藤氏は孤立無援の選挙戦を強いられていた。とはいえ、斎藤氏はSNSを使って、「マスコミにたたかれて、かわいそう」との同情心をあおっていた。この「お涙ちょうだい選挙戦」によって、ひょっとすれば稲村氏と互角近くまで票を伸ばすかもしれない、とわたしはおもった。
NHKから国民を守る党(NHK党)の立花孝志党首が現れなければ、「SNSを使った斎藤氏の善戦」という結果であっただろう。ところが立花氏は、斎藤氏を当選させることを目的に立候補したのである。「二馬力選挙」と呼ばれるもので、立花氏は政見放送で、知事のパワハラの内部告発者について、「10年間で10人と不倫していた」と真偽不明の主張をし、街頭演説で「斎藤さんは悪くない」と語った。こうした「斎藤潔白発言」がSNSで拡散。中盤から終盤にかけて、斎藤氏の街頭演説会が盛り上がり、熱狂的な支持者の渦ができた。
選挙の結果、斎藤氏は1、113、911票を獲得。稲村氏の976、637票を137、274票上回って当選した。立花氏の得票は19、180票だった。SNSによる、「お涙ちょうだい」プラス「斎藤潔白」作戦の成果であることはまぎれもない。だが13万7000票もまさった理由がわたしには分からなかった。
立花氏は今回の参院選に兵庫選挙区で立候補した。自民、公明の現職に加え、新たに元明石市長の泉房穂氏(無所属)や参政党の新人らが挑戦する激戦区である。わたしは立花氏の得票を10万票程度だろうとおもっていたが、予想を5万票上回る157、005票を獲得した。立花氏の知事選での得票より137、825票も多かったのである。立花氏の参院選と知事選の得票差は13、7825票。ということは約13万7000人の有権者が知事選では斎藤氏に投票したことを意味する。
すでに述べたように、知事選で斎藤氏が稲村氏を超えた票数は約13万7000。なんと、ぴったり符号するではないか。斎藤氏は立花氏の持つ票によって当選できたわけだ。前例のない「二馬力当選」なのであった。だが、内部告発した文書を作成した元局長の私的な情報を総務部長が県議会議員に漏洩した疑惑について、県の第三社委員会が5月、「知事らの指示で行われた可能性が高い」との調査結果を発表。「斎藤潔白説は根柢から揺らぐことになった。もし知事選がこの結果発表後に行われたら、斎藤氏は再選できなかったに相違ない。
兵庫知事選で存在感を示した立花氏だが、NHK党は参院選では、旧統一教会の支援を受けた比例区の現職・浜田聡氏が落選、選挙区でも立花氏をはじめ全敗し、獲得議席ゼロに終わった。政治力がガタ落ちになった立花氏に代わって旋風を巻き起こしたのが参政党代表の神谷宗幣代表。前回参院選では参政党は1議席を得ただけだが、今回は14議席も獲得、神谷代表は時の人となり、マスコミにひっぱりだこだ。
参政党は「日本人ファースト」をうたいもんくに、SNSを最大限駆使して選挙を行った。だが、神谷代表は演説会で「高齢女性は子どもを産めない」と述べるなど、たびたび差別的な発言を行い、SNSには「生活保護を受給する世帯の3分の1は外国人」などのフェークニュースが流れた。マスコミは兵庫知事選の反省から、SNS上での誤りを指摘する報道を行ったが、支持者にはほとんど影響せず、終盤、同党候補者の演説会は熱狂的な支持者であふれかえった。その様子は、兵庫知事選の再現であった。
「日本人ファースト」は、小池百合子・都知事の「都民ファースト」、トランプ氏の「アメリカファースト」を思い起こさせ、キャッチコピー上の「三馬力選挙」といえるだろう。神谷氏は立花氏の手法を組織的かつ巧妙に行って、政治に不満をもつ者の心をとらえる、天才的ポピュリズム政治家のようである。
参政党は次の衆院選、参院選ではさらに議席を増やすかもしれない。だが、そうした選挙手法が民主主義の観点に立てば、大いに問題があることは、兵庫知事選でみたとおりだ。今回の参院選は、兵庫知事選の誤りを全国規模で繰り返されたのである。