
女性が素潜りでアワビ、サザエや海藻を獲る「海女(あま)漁」は世界でも日本と韓国に見られる漁法で、その始まりは約2,000年前と言われます。特に三重県の鳥羽・志摩地方では国内の約半分にあたる750人ほどの海女が活躍しており、海女が中心となって継承してきた祭りなどの伝統文化が息づいていることから2019(令和元)年5月に「海女(Ama)に出逢えるまち 鳥羽・志摩~素潜り漁に生きる女性たち~」として日本遺産に認定されました。その中には菅島(鳥羽市)の「しろんご祭り」や和具大島(志摩市)の「潮かけ祭(大島祭り)」、答志島(鳥羽市)の「細い路地裏」、神島(同)の小説『潮騒』の舞台などが構成文化財になっています。
鳥羽・志摩地方は古代より志摩国と呼ばれ、朝廷に食料を献上する「御食つ国(みけつくに)」として知られていました。それは『古事記』や平城宮跡から出土する木簡、『延喜式』(平安時代)などから推察され、『万葉集』にも大伴家持(おおとものやかもち)の歌として「御食つ国 志摩の海女ならし真熊野(まくまの)の小舟に乗りて沖へ漕ぐ見ゆ」があります。古代より朝廷の台所の一部を志摩の海女が支えていたことになります。
鳥羽市国崎で海女が獲ったアワビは毎年「熨斗鰒(のしあわび)」という干物として伊勢神宮に奉納されます。鎌倉時代の成立とされる『倭姫命世記(やまとひめのみことせいき)』には、倭姫命が神饌(しんせん:神に供える食事)を求めて国崎を訪れたところ、「おべん」という海女が奉納したアワビが大変美味であったのでこの地をアワビ奉納する御贄所(おんにえどころ)に定めたという伝承が記述されています。
菅島で7月に行われる「しろんご祭り」では、白い磯着を身にまとった海女らが競って雄雌一対のアワビを獲って白髭神社に奉納します。つがいのアワビを最初に獲った海女はその年の海女頭となり尊敬を集めるそうです。
アワビの雌雄は生物学的には生殖腺(きも)の色で見分けることができ、クリーム色だとオス、黒緑色だとメスになりますが、殻の外からは見分けることができず、産卵期でないと色もはっきりしないため、一般的にはクロアワビをオンガイ(雄貝)、メガイアワビをメガイ(雌貝)としてつがいのアワビと呼んでいます。メガイアワビが少ないのでしろんご祭りでは実質的にはメガイアワビを探す競争になるようです。神社に奉納される“夫婦”のアワビは実は別種同士の“国際結婚”ということになります。