現代時評《防衛費と大災害》貝塚次郎

南海トラフ地震で想定される震度や津波の高さ(気象庁HP)

初めに内閣府がまとめ2019年4月に発表された資料によると、南海トラフ地震の被害の想定によると次のようになります。

 

 

時期      2035年を中心に前後5年(地震予測モデル)
想定規模   マグニチュード9.1(東日本大震災の約10倍の規模)
想定震度7の地域   10県 151市町村
津波の高さ    最大34m  到達時間 最短2~3分(高知・和歌山)?
想定される被害地域  静岡県から宮崎県 地域人口 約6600万人
想定される被害
死者          32万人
建物の倒壊      約238万戸
避難者(1週間後)  960万人
食料の不足      9600万人分
経済的被害      220兆3000億円                             上記が今後十数年の間に必ず起こる南海トラフ地震の概略です。
京都大学名誉教授の鎌田浩毅先生によれば、前回1946年の南海地震で隆起した地面が元に戻るまで沈下して”プラスマイナスゼロ”になるのが、2035年に当たるそうです。
1707年の宝永地震、1854年の安政地震、1946年の昭和南海地震の間、海水面の隆起と沈降を計測し続けた高知県室戸地区の室津港の漁師たちの貴重なデータです。そのデータがほぼ間違いなく、安政地震と昭和の地震に時期に当てはまっているそうです。そして、昭和の地震で隆起した地盤が0になる時期が2035年に当たります。

現在の日本列島は今から千数百年前の9世紀とよく似た天地動乱の時代に当たり,3.11東日本大震災をはじめ、神戸や熊本など幾多の直下型地震に襲われ、今後、関東地方の活断層が引き起こす大地震や、南海トラフ地震後の、富士山の噴火等が避けられないと考えられています。その後の日本がどんな苦難を乗り越えなければならないか、想像を絶します。

話は変わりますが、今この国の政治家は5年簡に43兆円の防衛費の増額で、その費用をめぐり与党間で激しい争いが生じています。自由主義陣営とそうでない国との色分けだけで、今差し迫った問題があると思いません。北朝鮮のミサイルは明らかに米国を意識し、また中国も日本よりは米国との覇権を争っていると思われます。
今後十数年先に、必ず発生する大災害に対して、政治家の先生達はどの様に考えておられるのか私にはわかりません。

勿論、政府が次に発生する大震災の、時期・規模・発生場所・等が100%確実でなければ動くことが出来ないことは承知しています。
ただ、防衛費の問題にしても、仮想敵国の問題にしても、戦争の時期・規模・相手国・等が100%確実ではありません。まして、お互いに胸襟を開いて話し合うことで,諍いを解決することも全く不可能では有りません。戦争を回避出来た例は世界中にいくらでも有ります。
そう考えた時、今後十数年の間に必ず発生すると考えられる、首都直下型地震、南海トラフ地震、富士山の噴火の3つの大災害、想定される被害額合わせて300兆円にも及ぶ自然災害も国家の存立の関わる自然からの防衛に当たるのではないかと考えます。

勿論 国や都府県、市町村も、多くの道機関も、調べれば色々なデータやその時にどうすればよいのかを、冊子やアプリで教えてくれています。ただ、政府や行政が、積極的にこの大災害に取り組んでいるようには思えません。地震や台風の被害を最小限にする為に
国土強靭化計画が15兆円の予算では決まったことは評価できますが、どこまでこの大災害から一般庶民の生命財産を守る為に使われるのかはまだ判断できません。

確かに、予測は確定ではありません。ただ鎌田名誉教授によれば、パスは絶対に有り得ません。この3つの大災害が発生する確率は100%だと断言されています。複雑系の物理学の泣き所で、いつ どこで 何時何分に との解は出せないそうです。
今後数十年の間に、わが国が仮想敵国から攻められる確率と、同時期に、この3件の大震災が起きる確率を考えて時に、私には今なぜ、これほど躍起になって、国債を発行してまで国防費を増額することに躍起なっている政府与党に不安な思いを抱きます。
私たちは、昔 学校で、互いに意見が違った時には、話し合いを続けて解決せよと教えられて来ました。殴り合えとは間違っても教えられたことはありません。

米国のトランプ元大統領も、支持を減らし始め、ロシアのプーチン大統領もまた、支持を減らしつつあります。
ウクライナが100%良くて、ロシアが100%悪いとは思いませんが、武力による問題解決を選択したロシアが国際世論の支持を得られていない事を考えると、わが国が近々 戦争に巻きまれる確率はそんなに高いとは思われません。
前回も書きましたが、与党は防衛費の増額をさっさと決め、総理の意向を無視する形で、増税より国債の発行に頼ってまで費用の捻出を計ろうとしています。与党の議員先生の言動はまるで明日にでも、仮想敵国から攻め込まれる様に感じられます。
この5か年計画の最終年の防衛費の総額は、米国と中国に次いで世界3位になるそうです。これが専守防衛標榜し平和憲法を戴く国の真の姿なのでしょか
この国の政府は、他国よりも圧倒的に高い頻度で発生する大規模な災害に対して、備えを十分にして、国民の生命財産を守る手立てを考える事は、国防を考える事と同じくらい、いや、それ以上に重要なことだと本当に考えてうのでしょうか。

1855年の安政の南海地震の時の逸話に、稲むらの火の主人公濵口梧陵が築いた広村堤防は、1946年の昭和南海地震で襲った4メートルの津波を見事に防ぎました。
数年前、同じ和歌山県の田辺港で、ほとんど堤防もない町々が連なっているのを見た時には驚きました。行政がどのように考えているのかを考えさせられました。
私が住まいのあるところも、津波予想の高さ以下です。そして、そこに新築の住宅が分譲されています。多分、現在の法律では分譲を止めることが出来ないからだ思います。

鎌田浩毅名誉教授を始め、多数の地震物理学や火山物理学者が懸命に啓蒙活動を行っています。
私は、被害が及ぶ一般庶民はもちろんですが、まず。国会議員、都道府県議会議員、市町村会議員、行政に携わる公務員の人達こそ率先して啓蒙していくべきではないかと考えます。
一人でも多くの人々の命を守るために。

註:
稲むらの火=1854年(嘉永7年/安政元年)の安政南海地震津波に際しての出来事をもとにした物語。地震後の津波への警戒と早期避難の重要性、人命救助のための犠牲的精神の発揮を説く。 https://onl.bz/6QRCmyn
啓蒙=無知の人を啓発して正しい知識に導く事