現代時評《ソ連嫌いのロシア好き》片山通夫

日本人の中で意外に多いのが「ロシア好き」。ロシア文学、ロシア料理、バレエ、ロシア映画など文化面に興味を持ち、あの難解なロシア語を独学ででも学ぶ意欲のある方が多い。ロシア民謡などを青春の思い出で歌声喫茶などで歌った方も多いだろう。歌声喫茶は1950年頃から東京や大阪など都会で流行りだし、ロシア民謡からとった「ともしび」、「カチューシャ」、または「白樺」、「トロイカ」と言った店名が多くあった。
人々はそんなところでロシア民謡に親しみ、文学に傾倒し、シベリアの雪原に思いを馳せた。{写真はイメージ}

けれどもそんなに人々を魅了したロシアだったが、1956年にハンガリーで起きたソビエト連邦の権威と支配に対する民衆による全国規模の蜂起が起こった。ハンガリー事件、ハンガリー暴動、ハンガリー革命とも言われた。またチェコ(当時チェコスロバキア)で1968年に起きた民主化運動「プラハの春」はソ連軍の介入で潰された。ポーランドでも80年代、民主化運動を理由にしたソ連軍投入が懸念された。このように東西冷戦時代の東欧諸国はソ連の高圧的な支配を受けていた。
人々はロシア料理や文学などロシアの文化には傾倒したが、ソ連と言う高圧的で不自由な世界を嫌っていた。

今プーチンのロシアは隣国であるウクライナを攻めている。理由はウクライナが西欧の仲間入りを望んでいるからだという。プーチンは西欧を「敵」と決めつけている。そしてその「敵」から自らの国を守るための緩衝地帯としてのウクライナが必要だというのがその理屈だ。何とも理不尽な理屈だ。そんな理屈が通るはずがない。また「プラハの春」の時のように、ロシア人はソ連時代から「離れようとする国や人々」に対しては武力で押さえつけてきた。無理やり自分の立場を押し付け、それで足りなかたら武力を用いてきた。
つまり、旧ソ連時代であろうと今現在であろうと、ロシア人は最後には武力でもしくは武力を背景に押さえつけてきたわけだ。ソ連圏やそれを取り巻く衛星国を今もなお配下におきたいという願望が強烈だ。つまりソ連時代の栄光(?)を忘れられないのがプーチンだとすれば、それはウクライナだけでなくロシア自身にも不幸でしかない。

「ともしび」や「カチューシャ」と言った歌声喫茶通じてロシアの文化に接し、愛した人々にとって、今のプーチンのロシアにはかつてのソ連を忌み嫌っていたのと同じような印象しか持てない。