現代時評「政権との癒着を断て!」片山通夫

韓国にハンギョレ新聞という名前の新聞がある。ハンギョレとは「一つの民族」あるいは「一つの同胞」という意味だそうだ。

1987年6月の民主化宣言直後の9月に発刊準備委員会が構成され、翌1988年5月に創刊された。漢字を一切使わない紙面は読みやすさを追求した結果だと聞いた。また大手の新聞が当時は漢字交じりの縦書きだったのを、創刊号から横書きを採用した。

軍政時代にむんしゅかを主張してその職を追われた記者が中心となって設立し「書きたいことを書ける新聞」だった。

ここでは同紙の歴史を細かく書く紙幅はないが、韓国の軍政時代の犠牲のなった記者たちが立ち上げたいわば「市民新聞」だ。

1987年6月の民主化宣言の骨子を少しのぞいておこう。

与野党合意による大統領直接選挙制改憲の実施と1988年2月の平和的政権交代実現

大統領選挙法の改正実現による公正な選挙の保障

金大中を含む民主化運動関連政治犯の赦免・復権措置

拘束適否審の全面拡大など人権保障の強化

言論基本法廃止など言論の自由を保障・強化をするための措置実現

地方自治の実現と教育の自由化実現

政党活動の保障を通じた対話と妥協の政治風土の構築

社会浄化措置の実施、流言飛語追放、地域感情の解消などによる相互信頼の共同体実現。

翌年1988年には韓国史上初のオリンピックがソウルで開かれる。軍政に終止符を打つ絶好の機会でもあった。もちろん学生や労働者がその実現に大きな働きをしたことは言うまでもない。そんな時代、つまり民主化の希望が大きく膨らんだ時代に、ハンギョレ新聞は産声を上げた。しかしながら旧守派ともいうべき盧泰愚政権から「ハンギョレ本社の家宅捜索」を受けたり様々な圧力を受けた時代もあった。

ともあれ、ハンギョレ新聞は、進歩派の知識人や労働者、学生に大きな支持を受けて育って行く。翻って、わが国の現状を、安倍政権のもとどのような姿勢で大新聞は臨んでいるのか少し考えてみた。

おりしもいわゆる安倍首相が開いた「さくらを見る会」が問題になっている。しかしこの問題を表に出したのは、共産党の議員であり、共産党機関紙のしんぶん赤旗だった。NHK、朝日、毎日、読売など大新聞やテレビ局のジャーナリストは残念ながらしんぶん赤旗の後追いでしかないのが現状だ。特にNHKは極端と言っていいほど巨大な組織だ。取材能力にしても他のマスコミを凌駕している。そんな組織が安倍政権に押さえつけられているさまは歯がゆいを通り越して情けない。

歯がゆいといえば、11月20日の時事通信の「首相動静」によると同日の晩、安倍首相は、都内の中国料理店で内閣記者会加盟報道各社のキャップと懇談したという。

今、「桜を見る会」でマスコミ各社は赤旗に負けじと必死になって取材にいそしんでいるだろうと思いきや、【中国料理店で内閣記者会加盟報道各社のキャップと懇談】だと。

当然ネット上では、「このタイミングで?」「これも『桜を見る会』と同じくらい問題じゃないの?」と非難轟々だ。

なぜこうなってしまったのか。理由は様々だと思うが、首相や官邸に物理的にも、心情的にも近い政治部の記者や幹部が、首相や官房長官のちょっとした記事や番組への不満を【中国料理店で内閣記者会加盟報道各社のキャップと懇談】した折に聞き「官邸や自民党との連絡役」になって、首相官邸の持つ不快感を局や社の上層部に告げ、そうしたメッセージを局側が忖度(そんたく)する形で、紙面や番組制作の現場に圧力がかかっているとおもわれる。

マスコミ各社は、このあたりできっぱりと【安倍政権をはじめとする権力との癒着】を断つべきだ。そうでないと安倍政権ともども心中なんてことになりかねない。