現代時評plus《功を焦る安倍首相》片山通夫

唐突なプーチン大統領の「年内に平和条約締結」という提案に、そのままではないが、安倍首相は形の上では「その話、載った」と言わんばかりの逆提案を行った。つまり、「二島返還」で手を打つということらしい。

重要なことなので「二島返還」という意味をここでおさらいしておきたい。

日本とロシアの間の領土問題となっている北方領土問題について歯舞群島と色丹島の二島を日本に返還あるいは譲渡する案。日本の政治家やマスメディア、政治団体などは主に返還として北方領土問題に言及することが多いが、ロシアの政治家やマスメディアは首尾一貫して返還(ロシア語: реставрация)ではなく「譲渡」(ロシア語: передача)という立場を取っていることに留意したい。

 戦後期のサンフランシスコ平和条約締結後の二島返還論(二島譲渡論)と鈴木宗男らの段階的返還論、ロシアの提示する二島「譲渡」論の3種類がある。

 日本は、195198日に署名したサンフランシスコ平和条約第二章第二条(c)において、千島列島におけるすべての権利、権原及び請求権を放棄した。ここでいう千島列島には、南千島である択捉島と国後島も含まれ、北海道の付属島である歯舞群島と色丹島は含まれないとするのが当時の日本政府の公式見解である。当時の日本政府はこうした考えのもと、二島返還を条件にソ連と平和条約締結交渉を開始した。これに対し、ソ連側は二島「譲渡」として受け入れ、一時は平和条約締結がまとまりかけた。しかし、平和交渉の第一次ロンドン交渉の途中で日本側は突如それまでの主張を転換、択捉島と国後島は我が国固有の領土でありサンフランシスコ講和条約で放棄した千島列島には含まれないという根拠付けのもと、択捉島と国後島を要求し平和条約交渉は難航した。その後、日ソ双方は平和条約締結を諦め、それに代わる日ソ共同宣言を出し、領土問題を先送りにすることで国交を回復した。

  1956年の日ソ共同宣言では、お互いが「譲渡」に合意していた色丹島、歯舞群島を平和条約締結後に日本に「譲渡」するとしている。この日ソ共同宣言に対するロシア政府の公式見解としては歯舞、色丹のみを日本に「譲渡」し、国後島、択捉島についてはロシア領土として返還も「譲渡」もしないことを意味する。日本政府の公式見解としては日ソ共同宣言に明記した色丹島や歯舞群島はもちろんだが、それに加え、日本固有の領土である択捉島と国後島も当然合わせて返還すべきだというものである。

  鈴木宗男の段階的返還論は、色丹島と歯舞群島の二島のみが日本領土であるとするロシア側の主張やかつての日本政府の主張とは異なり、四島とも日本固有の領土であるが、まずは二島を返してもらおうというものである。

  またロシア側における二島「譲渡」論(二島返還論ではないことに注意)とは、主に歯舞・色丹の「譲渡」のみでこの問題を幕引きさせようとする案のことであり、現在のロシア政府の公式見解である。いずれにせよ、ソビエト時代を含め、ロシア側は首尾一貫して返還ではなく「譲渡」であるとする立場を崩していない。これは、ロシア側が、日ソ中立条約の破棄を条約違反ではなく「正当な解消」であるとする立場を貫いているためであり、そこには「北方領土の占領と編入は第二次世界大戦の成果として当然、認められるべきだ」とする含みがある。一見荒唐無稽とも取れるロシアの主張だが、ヤルタ会談における極東密約(ヤルタ協定)により、アメリカの大統領とイギリスの首相が日ソ中立条約の破棄および北方領土の領有に対して正当性を担保しているので、ソ連の対日参戦が不法な宣戦布告であると簡単には一蹴できない点に留意されたい。  (イタリック体はウイキペディアから)

そしてプーチン大統領は譲渡(返還)した二島に、米軍が基地を置くことになっては困るという理由で、譲渡(返還)にはおいそれとは応じない姿勢も示してきた。これに対して安倍首相は「誤解だ」と米軍が歯舞・色丹に展開することはないといっているようだが、米国にまともにものを言えない安倍政権をプーチン大統領が信じるとは思えない。日米安保条約には、米国は日本のどこにでも米軍基地を置くことができると明記されている。この内容を安倍首相がトランプ大統領に交渉して変更させることができると、誰も信じまい。

そして2018年11月18日の共同通信は「もうだまされない」と、ロシアのペスコフ大統領報道官は次のように語ったと伝えた。
「ロシア国営テレビのトーク番組に出演し、ロシアと北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国との間の交渉でロシアには過去『苦い教訓』があると指摘。『ゴルバチョフ(元ソ連大統領)を、ドイツと米国との間の当時の交渉を、その後NATOが少しずつ東方拡大したことを思い出そう。それは現在も続いている』と指摘した。
これが何を意味するかは明白だ。

また外務省が冷戦下の73年に作成した秘密文書「日米地位協定の考え方」だ。これを特報した琉球新報の報道によると「『返還後の北方領土には(米軍の)施設・区域を設けない』との義務をソ連と約することは、安保条約・地位協定上問題がある」との趣旨が記されている。

ことほど左様に安倍首相が「二島返還」を口にできるほど簡単な話ではない。単に首相が「功を焦っている」としか思えない。何しろ拉致被害者家族に広げてきた大風呂敷、北朝鮮をめぐる東アジアの最近の情勢に蚊帳の外に置かれている状況、人間味が感じられない対慰安婦対応などの国際的な対応に失敗して成果が上がっていない現状、それに国内でもモリカケ問題におけるグレーな対応など問題は山積である。
功を焦る安倍首相の姿は滑稽でもあるが、哀れでもある。そんな首相に振り回されて何の批判もできないマスコミも哀れでしかない。
ひいては我々国民が悲惨だ。