書評「戦争は女の顔をしていない」:片山通夫
![]()
第二次大戦において相当数のソ連邦の女性が参戦していたということは、断片的に知っていた。たとえば、シベリアに抑留された人々の収容所(ラーゲリ)での手記などで読んだことがあった。しかし、本格的に、真正面から、「大祖国戦争」に参戦した女性たちへのインタビューを試みた著書には、筆者が不勉強だったのだろうが、お目にかかったことがなかった。筆者にとっては闇の向こうにあった史実である。
その筆者にとっては闇の向こうにあった「女性たちの実像」に迫る書籍が出た。実は昨7月29日「戦争出前噺」の本多立太郎氏を和歌山に尋ねたばかりだった。その折、同氏がシベリア抑留の経験をお持ちだったことを思い出し「こんな本が出たのですが」と話してみた。同氏は「そうなのですよね。ソ連は女性兵士がいたようです。女性兵士の目から見た戦争も興味ありますね」と言っておられた。
本多氏が語る通り、ソ連兵士の中に多数の女性がいたことは本書で明らかになる。そこには様々な悲劇的な経験をした兵士の姿が描かれている。しかし「大祖国戦争」が勝利に終わったとき、その勝利は「男たちだけの栄光」になった。彼女たちは歴史の隅に追いやられてゆくのである。
そんな彼女たちをインタビューし続けたジャーナリストがいた。このジャーナリストも女性である。1948年にウクライナに生まれた著者スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチは国立ベラルーシ大学でジャーナリズムを学び、地元紙などで働いたのち独立し第一作目のドキュメンタリーを書いた。そのドキュメンタリーが本書である。現在ベラルーシでは記者活動が思うままにできないので、ドイツに住んでいる。
さて本書だが、第二次大戦には百万人を超える女性兵士が参戦したというのだ。男たちの世界だった戦場に赴いた彼女たちの心情や、今だから話せる、いや今でも話せないので匿名でなど、さまざまな条件のもとで、著者はかつての兵士たちの気持ちをときほぐしながらインタビューを続けてゆく。何にもまして、女性兵士の話を誇張せず、淡々と描いてゆく著者の手法に感銘を受けた。ぜひ、わが国が引き起こした同時代の戦争に赴いた兵士たちの生の声から「そこでは何が起こっていたのか」を知りたいものだ。
そのような視点でみると、本書に描かれている女性兵士たちの事実を受け入れて著者のインタビューに応えた真摯な姿とともに、ジャーナリストとしての著者の姿勢に敬意を表したい。
最後に、翻訳をされた三浦みどりさんは、暗殺されたアンナ・ポリトコフスカヤ著の「チェチェンやめられない戦争」の日本語訳をはじめ多数の翻訳がある翻訳家だ。
タイトル:「戦争は女の顔をしていない」
著者:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ
訳者:三浦みどり
ISBN4-903619-10-1 C0022
出版年:2008.7
判型:四六判 頁数:388ページ
定 価:2,100円 本体2000円+税