「ロシアン・ダイアリー」 ―暗殺された女性記者の取材手帳(NHK出版)
2006年10月7日、モスクワでひとりの女性ジャーナリストが暗殺された。犯人はまだ挙がっていない。彼女の名はアンナ・ポリトコフスカヤ。モスクワの新聞ノーヴァヤ・ガゼータ紙の記者。チェチェン紛争に単身乗り込んで取材する。プーチン大統領の暗部に迫る。そうだから彼女の著作は最初の「チェチェンやめられない戦争」以外ロシア語では出版されていない。これはなにを意味するのか、ここに紹介する「ロシアン・ダイアリー」(写真中央)を読むと理解できる。
「チェチェンやめられない戦争」(写真左)の訳者・三浦みどり氏は「ポリトコフスカヤが殺されてしまった時、彼女の無念を僅かながらも共有する者として 彼女の本が広く読まれるためなら 自分にできることは何でもしたいと思っていたので、前作『プーチニズム』のときと同様の協力してほしいと言われすぐに同意した。前作と同様、これもロシア語で出版されていない」という。そして「決して『ロシアって怖い国だ』という風には読まないでほしい」と付け加える。ロシアのジャーナリストが書くことが出来ない状況は今の我国のジャーナリスムと同じ状況だとも指摘する。
三浦みどり氏は続ける。「ロシア国内で出版されない本を書いて外国の人に読んでもらっても仕方ないと書いてある(p469)ところでは、ここに書かれているのとそっくりに、何をされてもおとなしく飲み込んでいるそういう国で出版できるのは、これがロシアというよその国のことだから?ロシアよりずっと以前から、こういうことが書かれてもニュースになっても、選挙の結果はちっとも変わらないという国だから?と思わずにいられなかった。最初の本を訳した時、ロシアに支局がある新聞社や放送関係の出版社から出してもらおうとは思わなかった。駐在員の活動に支障がでたら申し訳ないと思ったからだ。それが、今回は、支局長時代にチェチェンの報道を当局の情報をなぞるだけでなく、かなりシビアにやっていた方で、直接アンナと会って話したこともある人が友情執筆しているのが嬉しい。アンナの生き生きした文章を訳しつつ、自分の日本語の乏しさに非力を痛感したわたしとしては、『プーチニズム』に続いて読みやすい日本語に訳されているのがとてもありがたい」
本書をそういう視線で読み返してみた。
我国のジャーナリスムが死んだと言われて久しい。なるほど・・。うなずける部分がある。例えば「官庁の発表モノ」の記事が多い。どの新聞やテレビを見ても全く同じ視線で報道している場合が多い。「護送船団方式」は我国のメディアではまだ生きていると言うことか。アンナ・ポリトコフスカヤの描く、いや糾弾するロシアのメディアも同じ様に見えてくる。ただ我国では生命までは奪われない。しかしジャーナリストとしては死んでしまっているから同じか・・。本書はそんなことをも考えさせられる一冊だ。
おりしも参議院選に突入する時である。この選挙をアンナ・ポリトコフスカヤの眼で見ることにしよう。この機会に是非お勧めしたい一冊と言える。
ロシアン・ダイアリー―暗殺された女性記者の取材手帳
アンナ・ポリトコフスカヤ 著
鍛原多恵子 訳
定価 本体¥2400- +税
ISBN978-4-14-081240-2
アンナ・ポリトコフスカヤ:ロシア人ジャーナリスト、1958年生まれ。1980年、国立モスクワ大学ジャーナリスム科卒業。モスクワの新聞「ノーヴァヤ・ガゼータ」紙評論員。1999年夏以来、チェチェンに通い戦地に暮らす市民の声を伝えてきた。「ロシアの失われた良心」と評され、その活動に対して国際的な賞が数多く贈られている。2004年、北オセチアの学校占拠事件の際、現地に向かう機上で何者かに毒を盛られ、意識不明の重態に陥った。2006年10月7日、モスクワ市内の自宅アパートで、凶弾に倒れた。
著書に「チェチェンやめられない戦争」、「プーチニズム~報道されないロシアの現実」(共にNHK出版・写真右)がある。
三浦みどり:訳書「ブブノワさんというひと」、「コーカサスの金色の雲」、「ボタン穴から見た戦争」(以上群像社刊)、「アフガン帰還兵の証言」(日本経済新聞社刊)、「チェチェンやめられない戦争」(NHK出版)
コメント
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投稿者: swcpj fpox | 2007年07月23日 03:00