サハリン物語(Web版)ヴァーリャの半生
夫の誕生日
2月11日は夫の誕生日。それも、50才になる記念すべき日です。そう、10年ほど前までの話だけど、盛大な誕生日祝いは還暦のとき、即ち60才になる年だった。しかし、最近ここサハリンでは、それに加えて50才の誕生日も大いに祝うようになった。ここでは近頃五〇を越えるのが難しくなってきたからです。他の国の人が聞いたら大笑いでしょうが。世界的に高齢化が進む中でここサハリンでは寿命が反対に短くなっているのです。これも男性の場合の話ですが。
原因ははっきりわからない。癌とかで若いのに死ぬ人も多くなってきたし、また思わぬ事故などで、例えば飲酒運転の交通事故、喧嘩に巻き込まれて殺されたり、強盗にやられて死んだり。本当に明日生きているかどうか、確信のもてない社会になってしまった。
特に、女と違って、今サハリン朝鮮人社会の家庭では、うちをはじめ大概の所では女が働いて食べている。夫は一応、ちゃんとした仕事は持って、会社勤めもしている。しかし、会社に行っても仕事がないのが現状なのです。殆どの会社が名だけで潰れている。だから給料も貰えない。だからと言って辞めるわけにはいかない。辞めて商売を始めたって成功する保証はないし、女みたいに出稼ぎに韓国に行くこともできない。もう少しで年金を貰える年になるから、もしものことを考えて辞めることはできない。今では、わずかな年金を貰ったって生活できそうもないけど。
それでもでっかい顔の男たち
だから、男の代わりに女が町で商売をして、生活を助けるなり、ドル稼ぎに走ったりするわけです。個人商店をやっているのは皆女の人たちです。
男を甘やかしすぎたかも知れない。今は皆失業者のように家で遊んでいる。
ウォッカを飲みながら麻雀をやっている。
うちの旦那もその中の一人。責めても仕方がないととっくに諦めている。だって仕事がないから本人たちもどうすることもできない。
もちろん、ビジネスなどができるほどの能力があれば別だけど、そうでもないみたいだし。忙しい私の代わりに留守番をしたり、子どもの世話や家事手伝いをしてくれることで満足しないと。そんな夫であっても、ロシアでありながら、ロシアではない朝鮮人社会なので、家では男は威張っている。だから奥さんに食べさせてもらっていても皆デッカイ顔している。それをまた当たり前と思っている女の人もいる。そんなわけで、男五〇才の誕生日パーティはどの家も盛大にするの。
私は使うために働いている
もちろん親しい友たちが集って、飲んで歌って食べての楽しい場だから嬉しい。誰となく、パーティの準備をできるだけ手伝ってもらう。
最近は昔と違って、お祝いをレストランでする人が増えてきた。韓国人は特にユジノサハリンスクにできた、ソウルレストランが気に入っています。ここサハリンでは一番値段の高いレストランです。地元のニューリッチか、外国人しか出入りできない高級レストラン。
私もそこを予約した。食事付の貸し切り、招待客一〇〇人。
周りではそんなに豪華にしなくて良いじゃないかと言ってくる人もいる。しかし、一生に一回になるかも知れないんだからけちることはない。だって、六〇まで生き延びるかどうか誰も保証できないもの。
それに、一生懸命稼ぐのも使うためだと思うから。今も貯めるばかりの朝鮮人が多いけど、私はそうしたくない。これ以上騙されたくないからです。この国は明日のことを予測できない。今と同じ生活を明日も送れるという保証はどこにもないの。今みたいに自由な暮らしがいつまでも続く保証は誰もしてくれない。いつまたお金があっても、ものが買えない時代が来るか分からない。お金を貯めたって、いつどうなるか。
先の見えないロシア
一晩で紙切れに
ソ連が崩壊してから、貨幣改革があった。朝起きてみたら持っているお札が紙切れになっていた。子どもの将来、私たちの夢のために少しずつ貯めたお金だ。子どもの教育費のための通帳、結婚費用のための通帳、そして夫婦の老後のための通帳など、目的別にこまめに分けて貯金をしてきたのに、一夜でそれが皆消えてしまったのです。
ルーブルだってそうです。ソ連時代に比べると何百倍も物価が上がった。
だから、信じられるのはドルだけ、今享受できるのはなんでも楽しむ。
こんな私を責める声もあります。金使いが派手だとも言われる。家も車もインテリアも誕生日祝いでも、何でも。でも、私は全然気にしていない。だって使うために稼ぐんだから。そして、使う喜びがあるからまたがんばれるのだから。
まさに皆に自慢できる盛大な祝いだった。たくさんのご馳走と飲み物、みながびっくりするほど用意して最高に楽しい時間にした。
お祝いのパーティを終えて次の日の朝、夫は私の肩を強く抱きしめながら、「ありがとう、本当にありがとう!」と何回も言ってくれた。私もやり甲斐があって、久しぶりにアツアツの雰囲気だった。嬉しかった。そして、もっと頑張ろうと思った。