サハリン物語(Web版)ヴァーリャの半生
「ここが好きでいるわけじゃない。出してくれないからいるんだ!」
しかし、配給のときの辛さは待つだけではなかった。よくロシア人と喧嘩もした。馬鹿なロシア人は朝鮮人って、皆同じ顔に見えて見分けることができない。だから、並んでいると、「お前さっきも並んでいたじゃないか」と怒るわけ。大部分の大人しい朝鮮人はそう言われたら無視するか、しつこくされると譲るか、どちらかである。特にロシア語のできない1世たちは泣き寝入りで、そのまま帰って来たりした。しかし、私は違う。負けるもんか。こっちも「馬鹿、目はついているのか、どこを見ているのか、ちゃんと見ろ!」と対抗する。ときには暴力沙汰にまで発展したりする。そうすると、「お前ら、どうしてここにいるのか、自分の国へ帰れ」と言われるの、最後は。
「ここが好きでいるわけじゃない。出してくれないからいるんだ!」
しかし、ここまでは言えなかった。後が恐くて。だから、いつも喧嘩しても最後には負けてしまっていた気がする。
「ママ、髪の毛皆抜いて」
ある日次男が大声で泣きながら帰ってきた。
「どうしたの、私の可愛い坊や?」と抱きあげた。
「ママ、私の髪の毛全部抜いて。それから黄色い髪の毛、植えてちょうだい」と強請る。
子どもって仲良くよく遊んでいるときはいいが、自分の思い通りに行かないと急に怒り出したりする。そうすると、ロシア人の子どもたちは「カレイスキー、カレイスキー!(朝鮮人、朝鮮人)」と言っていじめる。そうすると、うちの子は「ニエット、カレイスキー! ヤー、ルースキー ルースキー!(いや、朝鮮人じゃない。私はロシア人だ)」と必死で言うわけ。それを見ていながらも何も言えなかった。言葉が見つからなかった。
「心を通じ合えるのは朝鮮人だけ」
うちの子どもらは3世です。ロシアの地で生まれた親を持ち、その親はロシア式の教育を受け、ロシア語を母国語として使っている。しかし、その親の子でもロシア人にはなりきれない。隠しようもないほど違う。私たち朝鮮人はロシア人のことを「耳から足のついている人種」と言う。勿論冗談で。すなわち、肌の色から体型などあまりにも違うのです。その中で感じる違和感は大きいのです。だから、朝鮮人にはなかなか馴染めない国なのです。