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連載「サハリン物語(Web版)」ヴァーリャの半生

 結婚

 私は23才のときに結婚しました。夫があまりにもしつこく私を口説くので折れてしまったのです。あるときオオタニに都会の青年たちが「嫁探し」に来るからと友達に誘われて待合せ場所に行ったの。「田舎のお姉ちゃんたちの方が汚れていなくていい」とわざわざ田舎へ出向いてきたのです。

 そのとき、夫は私に一目惚れしてしまった。それから数回家を訪ねてきた。こっちは全く気に入ってないのに。うっとおしいなと思ったことを覚えている。
 そんなある日、私の母が大変なことを口にした。
「お前、どうする? あの人と結婚する? もしその気がないのなら、私は首を吊って自殺するよ。世間に恥ずかしく生きていられないもの。嫁入り前なのに家に何回も男が訪ねてくるなんて。その人のところに嫁に行くか、私を殺すかどちらかを選びなさい!」

「お母さんが死ぬなんて、やめて! 私、あの人のところに嫁に行くから」

 こうして夫は私を獲得できたわけです。私にも気があったじゃないかって? そんな馬鹿な。お母さんが本当に恐かったの。死ぬって本気だったから。異国の地に来て30年近く住んでいても母はいつまでも朝鮮の人だった。

 結婚してすぐ夫は仕事でハバロフスクに行ってしまった。私はその間、実家で結婚前と変わらぬ日々を送っていました。確かに結婚はしたのに、何も変わっていない。結婚した実感がなかった。今と違って、そのときは電話等あるわけない。時々手紙が送られてくるだけだった。そうして3年の歳月が流れた。ひとりひとり周りから独身者がいなくなり、どんどん母親になっていく。そのとき、はじめて焦りを感じた。
 
それで、ちゃんとした結婚生活がおくれないのなら別れると手紙で言ってやったの。夫は手紙を読んで、仕事を片づけて大急ぎで戻ってきた。それから、初めて新婚生活に入ったわけ。その後すぐ長男が産まれ、その3年後に次男が産まれた。とても幸せだった。子どもたちは本当に可愛い顔をしていて、外を連れて歩くと皆が振り向いてくれるほどだった。可愛い我が子は有り難たいことに、大きな病気もせず、すくすくと育ってくれた。
 夫は電気技師として、私は工場で一生懸命働いた。子どもたちのために。うちの親が私たちのためにやってきたのと同じことをしたのです。この子たちには辛い思いをさせたくない。ロシア人の間で堂々と生きていけるようにしてあげたい。だから、まずいい教育を受けさせたい。一流大学を出て、一流の職場で働けるようにしてあげたいと。

子どもの教育

 そのためには、大陸に行かせなきゃ。このサハリンには大陸でも認めてもらえるほどのいい学校がない。できれば、モスクワあたりが一番いい。しかし、そこで勉強させるにはお金がかかる。だから、今から一生懸命働いて貯金するの。気がついたら、私は親と同じことをしていた。子どもを育てて初めて親の有り難味が分かるってよく言うけど、本当だなと思ったの。
 うちの親のことを考えると本当に胸が痛む。それはうちだけの話ではない。ここサハリンに住んでいる朝鮮人の歴史、そのものなのです。その話を少ししてみましょうか? どうして私がここで生まれたか? そこには長い歴史があるのです。